改訂版 医療安全対策の常識と工夫(14)
医師たる者の「謝罪」の重み
「医療崩壊」の報道を受け、一般の国民にも医療現場の窮状が少しずつでも伝わってきたためでしょうか、「医師不信、医療不信」という言葉が、マスコミ各紙に載ることも、若干少なくなってはきましたが、それでも、医療事故や訴訟の記事は新聞に掲載され続けています。
医療界へのバッシングが特に厳しかった1990年代には、一部の医療団体が、「医師は患者に対して、例え医療過誤があったとしても謝らない方がよい」と発言したことがあったようです。京都府保険医協会は、医療過誤が明白になった場合には、「謝るべき点は謝る」のが、今後の患者さんとの関係を若干なりとも良くするものと考えています。そして医師が謝罪するには、それなりの条件が整ってからと考えます。
まず、考えていただきたいことは、医療の専門家たる医師は、事実が明らかになる前に、悪い結果のみでミスを認める(ような)発言は決してしないことです。「そうは言っても、患者さんの怒りが…」と言われるかもしれませんが、その時にこそ、ぐっと堪えて冷静になることが必要です。それから、(1)診断は的確であったか、(2)医療行為の適応はあったか、(3)手技に問題はなかったか、(4)説明は十分にして患者さんの理解を得ていたか、(5)事故後の処置は適切であったか、等について考えて下さい。
ご承知の通り、医療には例え医師であっても、想像を遥かに超えた「何か」が横たわっています。結果が不注意によるものか、不可抗力によるものかは調査しなければ判らないことも多いのです。医師が無条件に謝るということは、その結果が不可抗力ではなく、明らかに人為的なものであった、と患者さんに理解されても仕方がないことなのです。
次回は、医療従事者のちょっとした心遣いについてお話しします。