改正介護保険法でこう変わる/変更・創設のポイント整理  PDF

改正介護保険法でこう変わる/変更・創設のポイント整理

 2012年度の介護報酬改定と、第5期介護保険事業計画の開始を見据えて必要な法整備を行う「介護サービスの基盤強化のための介護保険法等の一部を改正する法律」が6月15日、成立した。介護療養病床の廃止など、医療・介護関係者から見直しを求める声が上がっていた施策に一定の変更を加えるとともに、高齢者が重度の要介護状態になっても住み慣れた地域で暮らし続けられるよう新たなサービスを創設する。保険料の上昇緩和に向け、都道府県に設置している基金の取り崩しも可能にする。施行は12年4月1日で、介護療養病床廃止の延期など一部については11年6月22日の公布日に施行する。改正介護保険法の主なポイントについてまとめた。

?介護療養病床の廃止は6年延期へ
 06年の医療制度改革で11年度末までに全廃することが法律で決まっていた介護療養病床は、同法案の成立により、既存病床に限って17年度末(18年3月31日)まで存続が可能となる。06年に約12万床あった介護療養病床は、10年6月時点で約8.6万床残っており、介護施設などへの転換が進んでいない状況だ。厚生労働省が10年に実施した転換意向調査で、約6割の介護療養病床の転換先が「未定」であることも判明。こうした状況を背景に、11年度末での廃止は困難という結論に至った。ただ、厚労省は将来的に介護療養病床を廃止するという政策方針は維持しており、今後、転換の受け皿として創設した介護療養型老人保健施設に対する報酬上の評価などで転換を進めていく考えだ。

?介護職のたん吸引・経管栄養
 12年度から医師、看護師との連携を前提に、研修を受けた介護職員らにたん吸引と経管栄養の実施を認める。現在、通知により実質的にたん吸引や経管栄養の実施が運用上認められている介護職員らについては、経過措置として11年度中に希望した場合、現在認められている行為・範囲に限って実施を認める認定証を発行する。それ以外の範囲も実施したい場合は、追加研修の受講を義務付ける。

 実施に当たっては、講義・演習などが中心の基本研修と実技を行う実地研修で構成する総合的な研修の受講が必須。研修時間など具体的な内容については、現在実施中の試行事業の検証を進め「介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制度の在り方に関する検討会」で決定する方針だ。 介護福祉士の標準業務としても位置付ける。16年1月実施の介護福祉士国家試験からたん吸引などについての内容を組み込み、17年度からは標準業務としてたん吸引と経管栄養を実施できる介護福祉士が登場する。

?24時間対応の「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」
 重度の要介護者の在宅生活も24時間365日支えるサービス「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」を創設する。訪問介護と訪問看護の組み合わせを軸に、定期的な10−15分の短時間訪問とオンコールで対応するサービスを組み合わせる。具体的なサービス提供体制などについては、現在、社会保障審議会・介護給付費分科会で検討中。24時間型のサービス創設を改正案に盛り込むに当たり、モデル事業を実施した民間シンクタンクによるシミュレーションでは、1事業所当たり45人の利用者を見込んだ場合に必要な職員は、常勤換算で介護職員22.8人、看護職員1.71人、面接相談員1人。利用者からのコールなどを受け付けるオペレーターは1事業所当たり常時1人としている。

 すでに介護給付費分科会では、このシミュレーションで示された「約2対1」の職員配置などを参考に、特別養護老人ホームのユニット型と比較した介護報酬規模などを議論している。

 24時間型サービスは、厚生労働省と国土交通省の共管事業として創設した登録制度「サービス付き高齢者向け住宅」の利用者も対象となるが、介護給付費分科会では、地域に点在する高齢者宅を時間をかけて回りながらサービスを提供する場合と、高齢者向けの集合住宅での効率的なサービス提供は別に考える必要があると指摘されている。

?情報公表制度は年1回の調査義務を撤回
 提供している介護サービスの情報を公表し、それにかかる手数料を事業者が負担する「介護サービス情報公表制度」についても見直しを行う。年1回の実施を義務付けていた調査員による事業所調査について、都道府県が必要と判断した場合に限り実施することにする。さらに、情報公表にかかる事務を効率化することで、事業者が払う手数料に頼らずに運営できる仕組みを目指す。同制度をめぐっては、事業者が手数料を負担する仕組みとなっていることなどについて、見直しを求める声が関係者から上がっていた。厚労省は今後、都道府県が事業所調査に関する指針を作る際のガイドラインを示す方針だ。

?複合型サービス
 医療ニーズの高い利用者に対応すべく、小規模多機能型居宅介護と訪問看護の併設を主に想定した複合型サービスも新たなサービス類型として創設する。「当面は小規模多機能と訪看の組み合わせについて詳細を検討している」(老健局振興課)が、条文では▽訪問介護▽訪問入浴介護▽訪問看護▽訪問リハビリテーション▽居宅療養管理指導▽通所介護▽通所リハビリテーション▽短期入所生活介護▽短期入所療養介護▽定期巡回・随時対応型訪問介護看護(前呼称=24時間地域巡回・随時訪問型サービス)▽夜間対応型訪問介護▽認知症対応型通所介護▽小規模多機能型居宅介護―の居宅系サービス同士の2種類以上の組み合わせが可能となっている。

?財政安定化基金取り崩しで保険料の上昇緩和
 65歳以上の第1号被保険者が払う保険料の上昇を抑えるため、都道府県に設置している財政安定化基金を12年度に限り取り崩せるようにする。第4期(09−11年度)に全国平均4160円だった第1号保険料は、高齢化による自然増などの影響から、第5期には5000円を上回る見込みだ。国、都道府県、市町村で3分の1ずつ拠出している財政安定化基金は、介護保険財政が苦しくなった場合に市町村に貸し付け・交付する仕組み。厚労省によると、第3期以降、貸付率は大きく低下しており、第4期末の残高は推計で全国約2850億円となる見通しだ。厚労省は、同基金の取り崩しで50円程度の保険料軽減につながる可能性があるとみている。市町村準備基金についても、取り崩して保険料軽減に活用できるようにする。

?介護予防・日常生活支援総合事業
 要支援者・介護予防事業対象者に介護予防サービスなどを包括的に提供する「介護予防・日常生活支援総合事業」を創設する。ケアマネジメント、介護予防、生活支援の実施を必須条件に、市町村が地域の実情に合わせて家事援助や機能訓練など介護保険の予防給付と、見守り・配食サービスなどの保険外サービスを合わせて、1つのパッケージとして提供できる制度。従来の予防給付も引き続き継続するため、実施する際は、市町村の手挙げ方式とし、従来通りの方法とパッケージ型の両方を利用者に合わせて振り分けられるような仕組みとする。地域のNPOやボランティアなどとの協力を前提とすることなども現在検討している。権利擁護、社会参加に関するサービスを組み合わせることも可能とする。(6/16MEDIFAXより)

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