指導・監査対策講習会を連続開催
現状を把握し改善の道探る
協会は連続して指導・監査対策講習会を開催した。まず4月27日、弁護士の石川善一氏を講師に「訴訟に見る指導・監査・取消処分の現状と、その改善に向けて」と題して開催、40人が参加した。続いて5月30日、理事者を講師に「指導・監査の実態その時、あなたはどう対応しますか?」を開催、48人が参加した。協会は今後も、指導・監査に関する行政情報の収集、会員への情報提供、個別指導における保険医の人権擁護のための相談対応や、録音および弁護士の帯同の勧奨等の活動を進める。
行政の「広範な裁量権」を制約し、法の支配への改善を
石川氏は、11年5月31日、東京高裁で保険医および保険医療機関の指定取消処分の取り消しを勝ち取った「溝部訴訟」の代理人(国の上告断念により同年6月15日に勝訴確定)。
石川氏は、東京高裁判決の意義(本紙第2791号を参照)について解説した後、現在の指導・監査の制度的問題点を指摘した。
(1)取消処分に至る「手続き」上の制度的問題点として、保険医の手続的権利が欠如している。例えば、診療録の提出の強要など、個別指導が事実上、監査化している。また、監査において、立会人選任権が認められていない、など。
(2)取消処分の実体上の制度的問題点として、厚生局長(担当官)は、療担規則違反があれば取消処分「できる」という「広範な裁量」を有しており、このために保険医の恐怖は萎縮診療につながっている。また、保険医と担当官の贈収賄や癒着、保険医の自死、PTSDなどの病理現象をもたらしている。
この改善のためには、対症療法と原因療法がある。
対症療法としては、東京高裁判決を活用すること。具体的には、個別指導では、担当官に対し「保険診療、請求等について周知徹底させることを主眼とし、懇切丁寧に行う」ことを求める。また、監査では、自らの記憶・医学的知見に反した虚偽の自白はしない。もし「不正」「不当」とみなされる事実があったとしても、事情があれば十分に主張して、理由を答え、それが調書に残るよう要請し、それを記録しなければ署名しない態度が必要である。
原因療法としては、厚生局長(担当官)の「広範な裁量権」を制約し、「人による支配」から「法による支配」を貫く行政への変更が必要だ、と指摘した。
その方法として、取消処分の基準に、各事情の考慮の仕方を点数化・ランク付けしてはどうか。その場合、監査要綱を改正させ、詳細な取消処分基準を定めることが望ましい。
また、手続ルールの改正として、健保法第73条、第78条に、保険医等の立会人、弁護士選任権を保障する改正を行う。また、同法第80条、第81条に取消処分にかかる証拠資料全部の閲覧権の保障を入れる。さらに、取消の諮問に際しては、地方社会保険医療協議会への保険医等の出席、資料提出、意見表明、代理人選任の権利を保障する条文を追加する政令改正をさせてはどうか。
加えて、現行健保法は監査の手続要件が広範で、厚労省は個別指導を監査化しているため、健保法を改正して監査の手続要件を限定させるべきだと提案した。
最後に、憲法第13条の「人権最大尊重の原理」に基づき、憲法第25条の「生存権の保障」による国民の「受療権」確保のため、保険医の「診療権」を主張していくことが、健保法改正の理念だと締めくくった。
講師を務めた石川氏(第1回目講習会)
指導等の相談は保険医協会へ
5月30日の講習会では、協会理事者が指導・監査の実態について説明した。草田理事が「指導、監査、取消処分とはなにか」について、松尾理事が「個別指導でよく指摘される事項」について解説するとともに、関理事長(当時)、田中伸明理事、事務局数人により実際の個別指導のやりとりの再現を試みた。また、弁護士の松尾美幸氏(京都中央法律事務所)が、個別指導、監査に帯同した経験から、実際の雰囲気や弁護士帯同の意義について報告した。
現在、保団連は『保険医のための審査、指導、監査対策日常の留意点』の改訂を進めている。年末に発行され次第、協会は全会員に配布する。
また、協会は京都府における指導・監査の実態について行政情報開示請求を行い、開示され次第、本紙および毎月25日発行の『グリーンペーパー』で情報提供している。
さらに、会員からの相談に事務局が応じるとともに、保険医の人権擁護のために弁護士の帯同と録音を勧奨しているので、お気軽に何でも事務局までご相談いただきたい。
講師の話に聞き入る参加者(第2回目講習会)