憲法を考えるために(47)  PDF

憲法を考えるために(47)

 
差別と人権
 
 区別と差別の違いの一つは、後者は人権侵害を伴うことである。いうまでもなく人権は、我が国の憲法において、最も重要な概念である。
 これらに関して7月24日、国連自由権規約委員会は日本政府に対し、18項目に及ぶ最終見解にもとづく勧告を「(今までに出された)多くの勧告が実行されていないことは遺憾」と強い文言を付加して出した。これには「福島原子力災害」「特定秘密保護法」「ヘイト・スピーチ」などが含まれている。
 「福島原子力災害」では、国連人権委員会グローバー特別報告を受け、政府が許容する公衆の被曝限度・年間20mSvが高く、また数カ所の避難区域がそれを解除され、放射能に高度に汚染された地域に帰還する選択肢しかない状況であることを懸念し、放射線量レベルの情報を提供し、生命保護に必要なすべての措置を講じ、放射能のレベルが住民にリスクを及ぼさない場合以外は避難区域の指定を解除しないよう勧告している。
 「特定秘密保護法」では、秘密事項の定義が曖昧で、ジャーナリストや人権擁護活動家に深刻な影響をおよぼしうる重罪を科していることを懸念し、国連自由権規約・表現の自由の基準を満たすよう、秘密の定義を狭め、国家の安全を害しない公益を目指した情報を流布した個人が刑罰を受けないようにすることを勧告している。
 「ヘイト・スピーチ」では、朝鮮・韓国人、中国人など日本におけるマイノリティー・グループへの憎悪や差別を扇動している言動と、これらに対する刑法・民法上の対応が不十分なことを懸念している(勧告内容については後述するものと同一趣旨)。
 またこれに続いて8月29日、国連人種差別撤廃委員会は日本政府に対し、ヘイト・スピーチ(デモの際に公然と行われる人種差別や、メディア上のヘイト・スピーチなど)に毅然と対処し、(そうした行為への捜査と訴追、これを煽る官僚・政治家への制裁など)法律で規制するよう最終見解にもとずく勧告を出した。これに関して、ヨーロッパでは厳しい法規制、アメリカでは厳しい社会的制裁が加えられる一方、日本政府は「表現の自由」への抵触を理由に消極的であったが、人種差別の扇動は「表現の自由」に含まれないと切り捨てられたという。
 「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ」(憲法前文)。そしてこれは身近な問題でもある。
(理事 飯田哲夫)

ページの先頭へ