憲法を考えるために40/大震災と改憲論  PDF

憲法を考えるために40/大震災と改憲論

 東日本大震災から1年余りの今年4月、自民党は憲法改正草案(2012)、「日本の再起のための政策」(原案)を発表しました。前者には、1. 国家元首は天皇、2. 国旗・日章旗と国歌・君が代の尊重、3. 国防軍の保持、4. 自衛権の発動はこれを妨げない、5. 公の秩序を害することを目的とした活動・結社の禁止、そして6. 緊急事態条項の新設など、後者には、7. 集団的自衛権行使を可能とする安全保障基本法制定、8. 海外に於ける武器使用基準の緩和などが盛り込まれています。これらの各項目に関しては、今まで折に触れ書いてきましたが、今回は草案9章・緊急事態について少し詳しく触れたいと思います。

 9章は緊急事態の宣言と効果からなり、それは、(a)総理大臣は外部からの武力攻撃、内乱などの社会秩序の混乱、大規模自然災害などの緊急事態には、これを宣言することができ、(b)その場合には、国民の生命、身体、財産を守るための国、公的機関の指示には、何人も従わなければならないと定めています。これらは国家緊急権ともいわれ、既に2005年民主党憲法提言にも書かれています。

 今回、大震災が起こり、それに対する政府の対処の遅れ、不十分さが指摘されるとき、憲法に緊急事態条項がないからだとの議論がありますが、民主党の提言時期からも明らかなように、これは多大な犠牲に便乗した議論です。震災には、それが大規模なものであれ、現行法、あるいは要すれば救済のための立法を速やかに行うなど、現憲法下で十分にできるはずで、憲法の不備だとはとても思えません。

 明治憲法には非常大権条項がありました。「本章=臣民権利義務ニ掲ケタル条規ハ戦時又ハ国家事変ノ場合ニ於テ天皇大権ノ施行ヲ妨クルコトナシ」。非常事態だと天皇・政府が決めれば、人権は保障されないことになり、その考えは様々な法律につながり、人権が軽視・無視され、そしてその後は歴史が教える通りです。

 先に述べた5. 公の秩序を害することを目的とした活動・結社の禁止にある「公の秩序を害する」、あるいは(b)国民の生命、身体、財産を守るための国、公的機関の指示にある「生命、身体、財産を守るため」などは、その決定を行うものにより解釈、実態に大きな幅があり得ることに十分な注意を払い、それらに隠されたものがないかを見抜く必要があるのではないでしょうか。

(政策部会理事・飯田哲夫)

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