憲法を考えるために(34)  PDF

憲法を考えるために(34)

「再・集団的自衛権(4)」―中国―

 再・集団的自衛権(1)では、集団的自衛権行使は憲法上許されないこと、(3)ではそれを認めることが、現実にはどのようなことを意味するか、そして(2)では、防衛大綱決定の基礎となる報告書が、今まで堅持してきた諸原則を放棄してしまっていて、解釈改憲ではないかと述べました。

 今回決定した防衛大綱でも、今まで堅持され合憲性を担保するものと捉えられ、専守防衛を意味した「基盤的防衛力」が、「動的防衛力」に転換されましたが、これは実質的には専守防衛の放棄に繋がっていくのではないかと危惧を感じます。そして大綱は「地域や国際社会の懸念事項」として中国を強く意識したものに思えます。これに関連した意見を新聞、雑誌などで少し読んでみました。集団的自衛権を見据えた改憲論、そして核武装論まで見られますが、ここでは共存を展望した議論を参考にしたいと思います。

 現在GDPは日本と中国がほぼ並んで米国の3分の1程度ですが、中国の一人あたりGDPが米国の4分の1程度に達するのは充分可能であり(中国は米国の約4倍の人口なので全体としては同じになる)、軍事力も米国に近づき、軍事費は日本の10倍に達するであろうとの予測を前提にすると、日本の取り得る軍事的選択は相対的に大きいとはいえないでしょう。

 また現在すでに米国の識者の意識調査では、アジアにおける米国のパートナーは中国とするものが60%近くを占め、日本は40%以下になっているといいます(外務省調査)。日本と米国の(長期的な)利益は違うことや、「日米安保の適応」と実際の軍事行動を起こすことには違いがあると考えるべきではないでしょうか。

 しかし一方、(米国、日本、アジアの現実を見れば)、中国大国化=軍事大国化から、中国が日本に軍事行動を起こす=日本を占領すると考えるのも短絡的でしょう。(尖閣諸島の問題を詳しく述べる知識はありませんが、中国は台湾を視野に入れていること、海上保安庁を中心に実効支配し、その強化の方向で対処しうるとの議論に耳を傾けるべきように思えます)。

 双方の経済的な「相互」関係の強化は、それが失われたとき双方に大きなリスクになるゆえに、関係強化に繋がることになるでしょう。中国を冷徹な目でよく知ること(日本との軍事的な衝突で中国が失うものとその影響など)、日本以上に中国の大国化に敏感なアジアの国々との関係強化、国連などの多国間の関係の強化・活用を通じて、(米国一辺倒を見直し)中国に対処する努力が大切ではないでしょうか。

 そしてそれには集団的自衛権を含む憲法改正などが必要ないことはいうまでもありません。「地域や国際社会の懸念事項」に、現憲法の理念で対処すべきです。

(政策部会理事・飯田 哲夫)

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