憲法を考えるために(20)
「再・格差と九条」
はじめに最近の改憲論の流れを簡単に振り返ってみたいと思います。
まずグローバル経済の下で(アメリカの圧力の下で)、普通の国(海外派兵可能な軍隊を持つ国)の妨げとなる9条を中心に改憲論が強まり、その問題点を覆い隠すためもあり、「新しい人権」などが加えられるようになりました。つぎに「押しつけ憲法」「戦後レジームからの脱却」などを特徴とする新たな保守主義的な改憲論(安倍)が台頭しますが、その復古主義、戦前回帰への市民の嫌悪感、警戒、反発から、改憲側にも改憲できなくなるとの反省もあって後退していきます。
そしていま新たな改憲潮流の中心になりつつあるのが、日本を新自由主義的な国家として作りかえていこうとするとき、その妨げとなる(9条に限らない)現憲法の改正にあるといわれています。そしてこの潮流が中心となってきているのにはもう一つの側面―小泉構造改革における新自由主義の矛盾が顕在化し、今までの国家の構造が破壊され、様々な矛盾が続出し、社会的な安定が揺らいでいることへの対処を迫られていることも大きな理由だと思います。
具体的には、雇用制度の破壊(派遣法改正、正規従業員の削減、非正規労働者依存とその切り捨てなど)、地方政治の破壊(国庫補助の削減、交付金の削減と地方自主財源化の三位一体改革など)、そしてもともと充分とは言い難い社会保障のさらなる削減などがあります。
そして現在の主な改憲論では、財政健全化(「憲法に財政規律の規定をおく」など)と社会保障自己責任化(「社会保障は自立、自助、自己責任」・「国民は、自己の努力と相互の協力により、社会福祉及び社会保障の向上及び増進をはかるものとする」など新自由主義的な規定とともに、天皇制永続化、天皇元首化、家族は社会の基礎、家族の保護規定、国家の教育権、国防義務など保守主義的な規定も見られます。
「9条の会」運動は9条改憲反対で護憲運動の大きな力となっています。そして一方、ここにのべた新しい改憲潮流に私たちはどう対抗していくべきかが、改めて問われているのではないでしょうか。
『憲法九条は戦争を否定し、平和を希求するものにとって守るべきものであると思います。しかし平和という考えのなかには、社会的に安全で、安心な、安定した生活を送れることも含まれているはずです。もしそうであるなら、医療をはじめとする社会保障の充実や、雇用・労働条件の改善など、生活に困窮する人を生み出す社会的な要因を解消しなければ、その人たちにとって、九条と平和は大切であることは判っていても、絵に描いた餅になりかねない恐れがあります』(シリーズ(11))より再掲)。(一橋大学・渡辺治教授講演を参考にさせていただいた)
(政策部会理事・飯田哲夫)