後期高齢者医療廃止後 「次の制度」へ向け国の議論進む

後期高齢者医療廃止後 「次の制度」へ向け国の議論進む

夏には制度骨格の「中間報告」 「次の医療制度」への2つのアプローチ

 民主党の医療保険政策は、「後期高齢者医療制度廃止」と「協会けんぽや国保も含めた地域保険として一元的に運用する新たな制度を作ること」である。それに沿って国の「次の医療制度」へ向けた動きが活発さを増している。

 現時点で明らかなことは、後期高齢者医療制度は2013年4月の「新制度施行」により廃止されること、廃止後の医療制度の構想は夏にも示されること、その基本方向は都道府県単位の「広域化」「一元化」であること、そして、新制度が従来の医療構造改革の延長線上の仕組みとされる危険性が高いということだ。

 次の医療制度に向け、現在国は2方向からアプローチしている。

 1つが、後期高齢者医療制度廃止からのアプローチである。国は、「高齢者医療制度改革会議」で新制度構想を議論している。

 2つめが、市町村の運営する国民健康保険の「広域化」である。国は、国会へ国保法等改正案(国保の医療保険制度の安定的運営を図るための国保法等改正案)を提出し、4月中にも成立する見通しである。

 11年年明けの通常国会には、新たな制度案が審議に付される。今こそ、医療者から国の責任による「皆医療保障型」の制度構想を打ち出す必要がある。

後期高齢者医療制度廃止からのアプローチ 改革会議の議論は「都道府県単位」の方向へ

 厚生労働大臣が主宰し、有識者で構成する「高齢者医療制度改革会議」は昨年11月に立ち上げられ、すでに5回の会合を開催した。

 同会議では、新制度検討にあたり「基本的な考え方」6点が示された。(1)後期高齢者医療制度は廃止する、(2)マニフェストで掲げている「地域保険としての一元的運用」の第一段階として、高齢者のための新たな制度を構築する、(3)後期高齢者医療制度の年齢で区分するという問題を解消する制度とする、(4)市町村国保などの負担増に十分配慮する、(5)高齢者の保険料が急に増加したり、不公平なものにならないようにする、(6)市町村国保の広域化につながる見直しを行う。これに沿い、同会議は夏の「中間まとめ」公表に向けた作業を進める。

 第2回までは「総括的議論」として、後期高齢者医療制度の問題点等の意見交換、第3回からは「制度の枠組み」へと議論が移っている。各委員は「全年齢でリスク構造調整を行ったうえで都道府県単位で一元化する案」「一定年齢以上の別建て保険方式案」「突き抜け方式案」「高齢者医療と国保の一体的運営案」が示され、それぞれ議論が進められている(メディペーパー3月号資料1に詳報掲載)。全体としては市町村国保を「都道府県単位」に広域化し、後期高齢者医療制度を統合する方向性へ支持が集まっている模様である。

 年齢による差別、被扶養者からの保険料徴収、資格証明書交付、年金天引き、応益保険料、公費5:現役4:本人1の財政負担割合の法定化等、後期高齢者医療制度には様々な問題点がある。その根底には医療制度構造改革による都道府県「医療費適正化計画」をはじめとする医療費抑制方針がある。したがって、新制度から同制度の問題点を完全に除去するには、前提として医療制度構造改革そのものの問題点を明らかにする必要がある。

 しかし、現在のところ高齢者医療制度改革会議では、年齢区分問題、保険料・一部負担金問題等についての議論はあっても、構造改革自体の問題点は共有されていない。

国保法改正からのアプローチ 国保の安定的運営を図るため広域化へ

 3月25日、衆議院本会議で「医療保険制度の安定的運営を図るための国保法等改正案」の趣旨説明が行われ審議入りした。

 今回の国保法改定は「市町村国保の運営の広域化・地方分権の推進」を基本理念に、将来の「地域保険としての一元的運用」に向け、市町村国保を都道府県単位に広域化させるもの。背景には、08年6月の地方分権改革推進要綱(第1次)において、「国民健康保険の運営に関し、保険財政の安定化や保険料の平準化の観点から、都道府県の権限と責任の強化とともに、都道府県単位による広域化の推進等について検討し、09年度中に結論を得る」とされていることもある。

 今回の改定案は概ね次の3つの内容を柱とする。

 1つは、06年度〜09年度に実施されてきた「国保財政基盤強化策」の延長である。80万円超の高額医療費について、国・都道府県からも公費を投入し、都道府県単位で費用負担を調整する「高額医療費共同事業」継続、保険料軽減の対象となった被保険者の保険料のうち、軽減相当額を公費で補填する「保険基盤安定制度」と、国保財政の安定化、保険料(税)負担の平準化等に資するため、市町村の一般会計から国民健康保険特別会計に繰り入れた場合に支援する「国保財政安定化支援事業」の継続。そして、「財政安定化共同事業」の継続と拡大・強化である。

 「財政安定化共同事業」は、都道府県内で市町村の保険料平準化、財政安定化のため、市町村国保の拠出で実施される事業である。レセプト1件30万円以上の医療費に関し、都道府県内全市町村が拠出する財源(プール金)から交付することで費用負担を調整する。今回の改定では、この仕組みを都道府県の判断で拡大できるようにする。具体的には、対象医療費額を30万円以下に引き下げ、「1円以上」からとすることが可能となり高額医療費共同事業と合わせ、都道府県内の医療給付の全てが、事実上都道府県単位の財源プールからの給付になる。同時に、共同事業への市町村の拠出方法も変更され、全体として市町村間の保険料額もフラット化されるという。

 これにより市町村国保は広域化され、都道府県単位の運営へと転換される。

都道府県は広域化等支援方針を策定

 広域化された国保を「支援」し、管理するのが都道府県の役割となる。国保法等改正では、都道府県へ新たに「広域化等支援方針」策定を促す。

 広域化等支援方針は、都道府県が国保事業広域化や財政安定化推進のため、市町村への支援を行うもの。「都道府県が果たすべき役割」「事業運営の広域化・財政運営の広域化・都道府県内の標準設定等」を書き込み、都道府県のリードで安定的に広域化を進める。具体的事業には、医療費適正化策の(共同)実施、収納対策の(共同)実施も例示されている。方針策定は「できる」規定だが、方針中に「保険者規模別の目標収納率」(保険料)を設定した場合、従来から保険者である管内市町村を悩ませる保険料収納率への普通調整交付金減額措置の免除というインセンティブが付される。そのため、ほとんどの都道府県が策定すると考えられる。

 さらに、「都道府県は当該都道府県内の市町村について医療費が著しく高いと認めるときは、医療費適正化その他必要な措置を定めた広域化等支援方針を定めるよう努める」との文言もある。国保の一元的運用により市町村毎の高額医療費発生リスクは分散さる。しかし、裏返せばそれが個別の課題ではなくなることになる。全体として医療費高騰を抑えるべく、「何をすれば給付抑制が可能か」が、課題となることは自明である。そう考えると、これは従来の医療費適正化計画を、都道府県の権限と役割を強化し、発展させたものと考えられる。

2つの合流点に見える次の制度構想 医療者・国民からの構想で対峙を

 後期高齢者医療制度廃止と国保法改正。一見無関係に見える2つの流れの合流点には、「都道府県単位に広域化された国保への後期高齢者医療制度の統合」という新たな医療制度構想が見えている。都道府県ごとに医療費適正化を競わせる構造改革路線を、むしろ強化・発展させた新たな制度が構想されている。

 そこには「地方分権」「地域主権」が色濃く滲み出ている。京都府が打ち出す「国保一元化」構想等、地方自治体側が医療保険制度に関する権限を地方に委ねるよう求める動きも広がっている。また、政府は12年の診療報酬・介護報酬同時改定に向け、一体的議論の場の立ち上げを検討している模様であり、高齢者の医療制度が介護保険制度見直しと連動する可能性もある。

 後期高齢者医療制度廃止を求める声は引き続き「即時廃止」の要求運動として表れているが、それだけでは足りないのが現下の情勢である。即時廃止に加え、今こそ国民・医療者の側から次の医療制度の構想を示し、その実現こそ要求せねばならない。

 我々は05年に医療制度改革提言を示し、医療保険制度を国が全面的に責任を負う、全国民対象の統一した制度に一本化することを提言した。そこでは、「保険原理」を脱却、「社会原理」を強化し、10割公的給付・現物給付を原則とする社会保障にふさわしい医療保障制度を目標に掲げる。それに向け、第1段階として保険財政再建・患者負担軽減を実現、第2段階で保険で良い医療を実現、第3段階で全国民対象の統一保険という目標達成へと具体的な道筋も示した。

 医療保険一元化は、保険財政安定や給付格差解消等につながる側面もあり、完全に否定するものではない。都道府県単位の国保一元化も国の責任による医療制度実現へのプロセスに位置づけられるのであれば、議論に値するだろう。しかし、見てきたように従来の医療制度構造改革路線に対する総括もないまま、ましてや強化する方向での検討は認められない。

 新制度案が示されるまでの僅かな期間だが医療者・国民の側から構想をあらためて突き付け、国の議論に対峙することが重要な局面となっている。

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