府内の医療はいま 地区医師会にきく
山城南
山城南医療圏は、木津川市(旧山城・木津・加茂町)・精華町・笠置町・和束町・南山城村からなる。相楽医師会が対応しており、同医師会の複数の先生に現状をうかがった。
相 楽 深刻なマンパワー不足 連携情報の共有進める
山城南医療圏の相楽地区には3つの病院(精華町国保病院、学研都市病院、公立山城病院)がある。医療機関配置は「西高(多)東低(少)」と表されるように、西部の精華町や木津川市に比べ、東部の笠置町と和束町、南山城村は特に少なく、医療資源の乏しい地域である。医師不足に関して、京都府内では北部地域がクローズアップされることが多いが、南部地域でも深刻である。いわゆる4疾病を例に地域の実状を紹介したい。
脳卒中については、公立山城病院は脳外科の常勤医3人、神経内科の常勤医1人、学研都市病院は脳神経外科の非常勤医1人が対応している。しかしながら両病院ともに自病院の患者を診るのが手一杯の状況で、救急患者を受け入れることが難しく、奈良県に搬送されることも多い。また、地区内に回復期リハビリテーション病棟がないほか、慢性期を担うベッドも少ないということも地区における課題の1つである。心筋梗塞に関しても同様で、公立山城病院の循環器内科医2人と学研都市病院の循環器内科医2人のみが対応しており、バイパス手術などの外科的手術が必要な患者は、奈良県や京都市内に搬送されている。
がんに関しては、地区内で完結することが難しい状況で、他のエリアから地区に戻ってきた患者の受け入れ態勢の整備が必要である。一方、糖尿病に関しては、中心となっている病院からの逆紹介が最近増加傾向にあり、病診連携の形ができつつある。今後、内科と眼科といった専門科をまたがっての連携がますます重要になっていくと考えられる。
以上のように相楽地区では、マンパワー不足により、基幹病院として十分に機能している病院があるとは言い難い。それにより、地域内で医療を完結することが難しい状況で、府内の他地区や奈良県に依存するケースも少なくない。南山城村の救急患者が、隣接する伊賀市(三重県)でも救急対応が困難なため、宇治市もしくは京都市内まで搬送しなくてはならないのもひとつの例である。さらに、整形外科や泌尿器科の医師も不足しており、北部同様、医師の補充が急務となっている。
そのような中、いわゆる4疾病に関わる連携を強化するため、開業医と山城南保健所で話し合いが重ねられている。09年2月には、どの医療機関がどういった疾患、どういった診療内容・手技に対応できるのかといった詳細な情報を医療機関、調剤薬局、訪問看護ステーション、ケアマネ事業所などの協力機関どうしで共有するシステムが構築された。現段階での成果は未知数であるが、病診連携、診診連携の強化に向けて着実に動き始めている。
京都・乙訓
京都・乙訓医療圏は、京都市と乙訓2市1町(向日市・長岡京市・大山崎町)からなる。今回は京都市を除く乙訓地域の聞き取りを行った。
乙 訓 在宅療養手帳を要に 多職種と連携を強化
乙訓地区には2つの精神科病院の他に、済生会京都府病院、長岡京病院、千春会病院、新河端病院、第二回生病院の5つの病院がある。地区医師会である乙訓医師会との間で病診連携が進められ、92年に済生会京都府病院、04年には新河端病院に開放病床が開設された。現在、人口は約15万人、高齢化率約20%であるが、高齢化社会に対して先取りして、医師会は種々の対策を講じてきた。その内の1つとして、96年に在宅療養手帳を発行し、在宅療養手帳委員会を開設、多職種との「連携の要」とした。今後は多職種との連携強化、専門医との病診連携強化による地域医療システムの構築が望まれる。
がんについては、済生会京都府病院を地域がん診療の中核病院として、管内では専門医への紹介が行われてきた。放射線治療装置(リニアック)を設置し、外来化学療法は病診連携のもとスムーズに行われているが、在宅療養を望むがん末期患者の緩和ケア病床はない。そのため、管区以外の病院と連携して在宅ターミナルケアが行われているケースもある。早期にシステム化された緩和ケアが地域で開始されることが望まれる。
脳卒中は08年8月、京都・乙訓地域保健医療協議会の作業部会として脳卒中作業部会が発足し、当地区における脳卒中地域連携クリティカルパスの作成が検討され、同年12月より京都府医師会作成の連携パス用紙が在宅療養手帳において、使用開始された。急性期病院は済生会京都府病院、回復期病院は水無瀬病院(大阪府島本町)、新河端病院、千春会病院、第二回生病院、維持期病院は新河端病院、千春会病院、第二回生病院がそれぞれに担う。現在、9例が医師会手帳管理事務局に登録されているが、管区外病院との連携パスも多くなってきている。今後は、連携パス症例の検討を行い、さらなる医療の標準化、再発防止の達成を計る必要がある。維持期リハに関して、在宅療養患者が多い。当地区も、かかりつけ医として往診する医師、訪問リハに携わる理学療法士等が不足している。
心筋梗塞は済生会京都府病院が24時間体制で原則対応する。常勤医3人で負担は大きい。心臓血管外科がないため、緊急手術の必要がある場合、管区外の病院に搬送となる。心筋梗塞について、各病院で完結する院内クリティカルパスはあるが、統一した連携パス用紙はまだない。そのため、逆紹介を受けた場合に、切れ目のないリハは困難となることが多い。そこで、病院間で共通する連携パス用紙の作成が望まれる。
糖尿病は、07年に済生会京都府病院に専門医(非常勤)が配置され、医師・栄養士を中心とした糖尿病教室が定期的に開催されているが、当管区での糖尿病のクリティカルパスはない。長期の糖尿病患者は合併症が多く、糖尿病のみの連携パスで運用できるか疑問に思われる点もある。
小児救急は、管内35小児科標榜医療機関、乙訓休日応急診療所と済生会京都府病院小児科が24時間体制で連携している。済生会京都府病院の常勤医は2人で負担は大きい。今回の新型インフルエンザ感染症に対して、懸命に外来対応しているが、疲弊している。また、重症用小児科1床を用意してあるが、さらに負担は増してきた。パンデミックに入院ができなくなる小児患者が出てくると予想され、他地域への速やかな入院連携システムの構築が望まれる。
周産期は管内、産婦人科を標榜する医療機関は1病院、2診療所、婦人科のみを標榜する4診療所と少ない。約半数は管外分娩である。済生会京都府病院では年間400件の分娩があるが、50%は紹介患者である。また、当管区も産婦人科医不足である。
その他では、医療・介護プランに対する評価が今後、報酬も絡んでさらに問題となる。行政に任せるのではなく、医師会として積極的に制度設計に関与すべきである。
後期高齢者医療制度、障がい者自立支援法廃止後の制度が不透明である。また、特定健診の廃止も考えられているが、新制度になる度に、対応を迫られ、振り回されているのが現状だ。
「府内の医療はいま」の前回記事に関して
本紙「府内の医療はいま」の連載は、京都府の保健医療計画が地域の医療実態を本当に反映したものなのかという問題意識のもと、京都府への提言を行う一環として掲載しております。そのため原稿については、地区医師会に聞き取り調査を行い、その確認の上、掲載させていただいております。
この11月23日号の山城北医療圏の記事について、以下のご指摘をいただきました。
(1)京都府における同医療圏内の小児救急医療体制(08年4月から変更)については、宇治徳洲会病院・田辺中央病院が担っており、(2)同医療圏内で「脳卒中」の急性期医療を担っている医療機関(09年11月)については、京都きづ川病院・八幡中央病院・田辺中央病院・宇治徳洲会病院・宇治武田病院・第二岡本総合病院―となっている。
さらに、「綴喜」の記事中、「京田辺市を中心とする地域には……(脳卒中について)基幹病院的役割の病院が存在しないことに加えて、回復期リハビリテーション病棟を持つ病院が存在しない」との記載がありますが、上記の通り田辺中央病院がt−PAにも24時間対応して急性期に対応しており、回復期リハ病棟はないものの、田辺記念病院とともに「回復期」「維持期」への対応に尽力している、とのことです。
また、「あらゆる診療科に対応可能な基幹病院的役割を担う病院は存在しない」との記載に対しては、「市内には南部で唯一NICUを備え、更に18の診療科を標榜する病院があり、夜間は数人の医師で対応している。また、心筋梗塞、脳卒中などで専門医が当直しない日はオンコール体制で対応しており市民の中核病院としての責務を果たしている」とのことです。
協会は今後も、それぞれのところで努力をされている地域の医療機関の実態を、できるだけリアルに紹介していきたく、情報収集に努めて発信していきたいと考えています。