府の“あんしん医療”議論進む
新たな政治状況の中で「新ビジョン」模索か
京都府が1月27日に全国知事会に提案した国民健康保険の一元化や、診療報酬決定権限委譲を含む「住民の健康医療政策の更なる充実に向けた検討課題について」(以下、京都府提案)を受け、京都府が今年度予算化した「あんしん医療制度構築共同検討事業」による、「あんしん医療制度研究会」が、第2回(7月14日)、第3回(8月27日)、第4回(9月14日)と検討を重ねている。
医療圏を越える患者の移動状況 胃の悪性新生物(入院)
第3回あんしん医療制度研究会資料より
利用データ:国保・後期高齢レセプト(平成20・21年5月診療分)
レセプトデータ活用の「調査研究」が進行中
第3回、第4回研究会では、「調査分析結果の途中経過」が京都府から示された。これは、第2回研究会で府の示した「調査研究のフレーム案」に沿って、実際にレセプトデータも活用した結果を示したもの。
フレームは3つの柱で整理した。レセプトデータを活用した「疾病構造・医療資源に関する調査研究」と、「市町村国保に関する調査研究」、そして「都道府県の保健医療政策に関する調査研究」である。
このうち、「疾病構造・医療資源に関する調査研究」では、実際にレセプトデータを活用し、「医療圏を越える患者の移動状況」や「医療資源の分布状況」「医療機関へのアクセス所要時間」「診療科別医師数と患者数の状況」等のデータが示された。
このうち、「医療圏を越える患者の移動状況」では、国保・後期高齢の08・09年5月診療分のレセプトデータを活用し、胃がん・肺がん・脳梗塞・くも膜下出血それぞれの入院について、圏外への移動状況を示した。たとえば、胃がん入院では、丹後医療圏内で入院する人は76・9%で、15%の患者は中丹へ。一方、肺がんでは、丹後医療圏内で入院する人は64・8%で、11・1%が京都・乙訓医療圏へ、16・7%が兵庫県へと移動という結果を示す。このようなデータを今後も作成し、結果を踏まえ、都道府県の保健医療政策をより効果的にするための方策を検討するという。
ただし、レセプトデータ活用については、研究会でもそのデータの正当性について疑問が呈されている。第3回研究会で委員からデータ処理に用いた「傷病名」について問われ、研究会事務局は「レセプトに複数の病名がついている場合は、機械的に上位の病名を採用」と述べ、「医学的ではない」と指摘されている。
これについて、第4回目では他のデータ処理は若干の修正がなされたものの、指摘された病名の取り扱いについては改善されないまま、引き続き進められている。
次回「国保一元化のイメージ」を府が提出
年内に中間報告、年明けに最終報告を予定
研究会では、第2回研究会で、委員及び外部有識者からの報告を受け、京都府医師会副会長の安達秀樹氏、福知山はなみずきの会の掃部修平氏、関西大学政策創造学部教授の一圓光弥氏の3人が報告した他、国民健康保険制度の概要、医療提供体制に関する論点整理、保健事業に関する論点整理を進めるなど、多岐にわたる事案を取り扱っている。
第3回研究会では、事務局から、年内に中間報告、年明けに最終報告を行うことが明らかにされ、第4回では、次回(第5回・10月を予定)、京都府から事務局としての国保一元化のイメージを出したい、との意向が明らかにされた。
折しも、「後期高齢者医療制度廃止」をマニフェストに掲げる民主党を中心とする政権が誕生した。京都府は、同制度廃止後の「次の医療制度のあり方」が議論となる状況を踏まえ、研究会と「報告」作成を行う方向性と見られる。
しかし、京都府提案は繰り返し本紙が指摘してきたとおり、1月の全国知事会への提案自体が、都道府県への診療報酬決定権限委譲要求等、致命的な問題点を抱えている。ましてや、研究会でも指摘されているデータの正当性についてさえ問題があることが明らかな今、それを裏付けに作成しようという最終報告が、「いつでもどこでも誰でも」の医療保障をなしうる、国民皆保険制度となるのかは疑問であることは言うまでもない。
協会は、引き続き研究会の議論を厳しく見守ると共に、京都府に対して必要な要望も行う。