市の保健・医療行政に深刻な打撃 市審議会がリハ問題で答申
京都市社会福祉審議会リハビリテーション行政の在り方検討専門分科会(会長・山田裕子同志社大学教授)は、2012年12月以来第6回目となる会議を6月18日に開催。「京都市におけるリハビリテーション行政の今後の在り方に係る答申(案)」を取りまとめた。これを受け、7月1日に開催された京都市社会福祉審議会(委員長・森洋一京都府医師会長)が、修正を施すことを前提に答申を正式にまとめ、7月9日門川市長に答申した。
審議会委員に緊急意見を送付 医療なしでリハビリは保障できない
答申案は、分科会における委員からの指摘を棚上げ、曖昧に放置したままで、京都市身体障害者リハビリテーションセンター(以下、市リハセン)の「附属病院」と「補装具製作施設」の廃止の方向性を盛り込んだ。
協会の垣田理事長は、分科会終了直後、開催予告のあった京都市社会福祉審議会に向け、審議会委員(臨時委員含む)56人に対し、市が棚上げする問題点を中心に「緊急意見」を発信した。
緊急意見は、主に2点を指摘。一つは、市リハセン附属病院が担っている役割を誰が肩代わりするのかという点である。第6回分科会でも市内のどの医療機関がどんな形で担うのかと委員から繰り返し問われていたが、市当局はまともに回答しなかった。
もう一つは、医療なきリハビリテーションはあり得ないという点である。このことを市自身が自覚しながらも、附属病院廃止で失われる機能をどう担保するのか、示すことができていない。まして、外来機能は残すのかという質問に対し回答すらしなかった。
第6回分科会では、会議終了直前にも、高次脳機能障害に特化した障害者福祉を実践するには、医療抜きでやれるとは思えない。医療チームの作った訓練計画と福祉チームで作った支援計画が両輪揃わないと難しい、との声があがっていた。この指摘は極めて重要なものだったが、7月1日の審議会で示された答申案にも、それについて十分に検討した形跡は見られない。(4面につづく)
答申(7月9日時点)の要点
○行政は自ら個別支援を行うよりも、「専門性を向上させるための支援」に重点を移すことが必要
○(補装具製作施設は)公が直接製作を行うのではなく、更生相談所に統合し、民間事業者への技術的指導や相談対応を行う機能への役割転換を図られたい
○公設公営病院としての現在の附属病院が果たす役割は相対的に低下してきたことは否めない
○次の機能に重点を置いたセンターに再編成し、充実させていくことが求められる
(1)障害のあるすべての市民のための総合相談窓口機能
(2)障害・高齢を問わない地域リハビリテーション推進機能
(3)高次脳機能障害者に特化した障害福祉サービス提供機能
委員から「無責任」「絶対反対」 市の姿勢を問う厳しい意見続出
7月1日の社会福祉審議会の席上では、協会の意見も踏まえ、複数の委員が市の姿勢を厳しく指弾した。
市民公募委員は、協会の意見書のような専門家の意見を読むと、答申案を審議会の正式答申にすることは無責任と考えるので賛成できない。審議会では分科会に参加していない医師の委員からの意見を聞くこと。その上で、直接の施策の受け手である市民等からの意見を聴取する公聴会やアンケート集約を行い、十分に市民参加の手続きを踏んでほしい。答申を急ぐべきではない、と主張した。
これに対し森委員長は、一部団体の意見が届いているかもしれないが、分科会にも専門家がいる。それ以外の専門家からも意見は届いており、偏った発言だとコメント。答申は十分な検討を踏まえてまとめられたと述べた。市民意見については、答申後のパブリックコメント等を行う旨を当局に説明させるに止めた。
別の市民公募委員からは、現在の市リハセン附属病院の役割が相対的に低下とあるが、役割は大きい。患者数減少に制度の影響があるなら、制度改善を求めるべきではないかとの意見があった。
さらに市会議員である委員は、附属病院廃止に危機感を覚える。回復期を過ぎても在宅復帰の難しい、重度の方の受け入れを行う市リハセン附属病院の役割を、今後誰が担うのか。今入院している人はどこが受け入れるのかと質した。
これに対しては山田分科会長が、市リハセン附属病院の役割を過小評価しているわけではない。しかし、患者数の(市民に対する)比率は低い。入院のハードルが高く、受け入れ可能な人だけを受け入れている。同じように重度で手厚い介護が必要であっても、受けられない人もいると認識した。そうではなく今後はふさわしい医療・福祉を同じように保障していきたいとコメント。続いて森委員長が、トータルとしてのシステム化が、方向性として答申案に示されている。政策医療とは公が何でもやるのではなく、どう分担するかも大切な役割だと述べた。「今後誰が担うのか」の質問に対しては、結局は回答がなかったといえる。
加えて、市民公募委員が答申案中の「施策により利益を受ける方」との表現を批判する場面もあった。委員は、障害があるがゆえに、社会参加できない人が受けるサービスを「利益」と表現しているのは理解できない。リハビリテーションは「利益」なのか?と厳しく質した。
これに対し、山田分科会長は、「恩恵」の方が良いかもしれないが、それは抽象的なので、利益と言い表していると説明。森委員長も「恩恵の方がいいのか?」と委員に問うた。これに対し、委員は「恩恵も利益もおかしい」と語気を強めた。森委員長が重ねて「施策により利益は受けないとお考えか」と質したのに対し、市民公募委員は(それが誤りであることを)障害者自立支援法をめぐる経緯から私たちは学んできたはずだ。障害のある人がリハビリを受けることを“益”とみなす、同じ過ちをこの審議会がおかすことはあってはならないと反論した。市当局は行政施策全般として書いている部分での表現であると説明。森委員長は、「利益」という考え方についての表記は修正すると述べた。
続いて福祉関係の労働団体から選出された委員から、このような重要な内容を短時間でまとめることは許されない。時間をかけて議論し直すべきで絶対反対だとの声があがった。
これに対し、森委員長は分科会の審議は慎重なものだった。もう一度審議することにはならない。この案の中で、修正できる部分は修正したいと考える。ただし、「預かり」とするより、(審議会で)一部違う意見があったことも合わせて書く形でまとめたいと述べた。
答申案から見える市の誤りは根本的 市リハセン機能縮小は財政リストラ
審議会当日の模様を振り返るだけでもその問題点は多い。
答申案およびとりまとめに至る経過で露呈した市の誤りは、根本的かつ全面的だ。
何より、市リハセン附属病院廃止の根拠とされる理由など論理破綻している。
附属病院が受け止めている市民は一部の市民であり不公平だというなら、受け入れ機能を強化するための検討をしてこそ不公平が是正される。結局は、残念ながら財政リストラを目的とした廃止を前提としているため前向きな検討ができないのではないか。必要な専門性が附属病院廃止によって低下するという指摘に対し、有効な解決法を示すべきだ。
国・地方自治体の役割とは社会保障そのもの 良識ある委員・市民の声に耳を傾けよ
答申案にも書き込まれた、市が金科玉条のように述べる「公民の役割分担」論だが、そもそもこれが問題である。
答申案に書かれた行政の役割は、計画と意思決定、システム構築と新しいニーズに基づき行政が先導すべき施策実施に限られている。制度・施策が定着すれば民間活力を積極的に導入し、その場合効率性や経済性を追求することで利用者の福祉向上が疎かにならないよう助言するというものである。
これが公の役割だと考えているなら、明らかに間違っている。
国・地方自治体の役割とは社会保障そのものである。市民の人権を守り、健康・生存を保障するのは公の仕事である。揺るぎない公の責任の下でこそ民間によるサービス提供は果たされているのである。公の本旨を棄て去るような誤った考えをベースに持っている限り、市民に対するリハビリテーション保障が必要充分に行えるはずはない。
答申は正式に京都市長に提出され、今後、パブリックコメントを経て主な舞台は議会へ移ると見られる。協会は、審議会でも示された良識ある委員の声。その背後にあるリハビリを必要とするすべての市民の声を背負い、引き続き手を緩めず、京都市のリハビリ行政拡充に向けた取り組みをすすめる。