小児科向上会レポート
小児科診療内容向上会が4月6日、京都小児科医会、京都府保険医協会と日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社の共催で開催された。京都小児科医会理事の若園吉裕氏が「保険点数の留意事項と最近の審査事情」について解説。神奈川県立こども医療センターアレルギー科の栗原和幸氏より「食物アレルギーの新しい概念と対応法―経口免疫寛容と経皮感作」について講演があった。
食べて治す食物アレルギー 経口免疫療法への期待
小児の食物アレルギーは、有病率が乳幼児で5〜10%、学童期以降で1・5〜3%と増加傾向を示し、ガイドラインに沿って幼稚園・保育園・学校等での個別対応が進む中、昨年の学校給食による食物アレルギーで児童が亡くなった悲報は関係者に衝撃を与え、子ども達を守る現場での対策の見直しや徹底が図られている。
従来の食物アレルギー治療は、診断に基づく適切な食品除去と栄養指導を基本に、予防や対症療法としての薬物療法により行われてきたが、演者である栗原先生は根治療法である免疫療法(減感作療法)に積極的に取り組まれ、経口免疫寛容の理論に基づいた急速特異的経口耐性誘導(rush specific oraltol eranceinduction; rush SOTI)を実施して成果を上げ、注目を集めておられる。言わば“攻めの治療”となる新たなストラテジーを提唱されており、「食べて治す食物アレルギー」という考え方のインパクトは大きい。
今回の講演では、 (1)rush SOTIの成果と課題、(2)経口免疫療法の根拠となる知見、(3)食物アレルギー治療の展望、について分かり易く話していただいた。(1)については、2007年の第1例以来、適応基準とプロトコールを発展させ、現在は卵、牛乳、小麦、ピーナッツの4食品について実施されている。これまで99例のうち97例で急速期の治療に成功し、約30%で副反応を示したが軽症例が多く、アドレナリン注射を要したのは2回であった。治療後、最長5年の経過観察においても課題があり、定期的摂取を維持する必要性や、体調不良時や激しい運動負荷、抜歯後の摂取による症状悪化例の他、1例だが好酸球性食道胃腸炎の発症例も経験されている。完全除去に戻ったのは3例とのこと。(2)については、免疫療法の歴史や、経口免疫寛容の根拠となったWells & Osborne(1911)の動物実験や、食品の早期摂取がアレルギー予防に繋がる可能性を示唆した関根ら(2002)やDu Toitら(2008)の論文を紹介された。そして、食物アレルギーの成立機序として注目されるLack(2008)の「二重アレルゲン曝露仮説」と、それを証明する形となった加水分解小麦含有石鹸による小麦アレルギー発症事件、更には食物アレルゲン経皮感作の原因となるフィラグリン遺伝子異常による皮膚バリア機能の障害についても解説された。(3)については、不必要な除去食が経口免疫寛容の機能する機会を奪って食物アレルギーを助長するリスクを指摘し、「幼少期から幅広く食べることが大切」という基本的姿勢とともに、食物アレルギー予防のため、乳児湿疹を積極的に治療することの意義を強調された。今後、イギリスを拠点に乳児期の高アレルギー性食品摂取の是非を検討する「EAT study」も注目される。
最後に、経口免疫療法はまだ一部の専門機関でしか行われていないが、患者や家族にとっては、食事という日常行為に潜む命の危険への恐怖やストレスから解放してくれる希望の光になるかもしれない――その信念で治療に挑まれる姿勢に敬意を表し、更なる知見を期待して報告を終らせていただく。
(西陣 岩見美香)