対厚労省 次回改定で訪問診療の厳格化危惧 要介護度等での線引きに反対
協会は、9月16日に厚生労働省と懇談を開催。同一建物居住者で訪問診療料を算定する際に添付することとされた別紙様式14についての会員からの要望を伝えた。この懇談では、倉林明子参院議員(日本共産党)の立会のもと、厚生労働省保険局医療課担当主査の田村圭氏が対応。協会からは、鈴木卓副理事長と事務局2人が出席した。なお、今回の要望は、9月18日付のMEDIFAXに掲載された。
2014年4月の診療報酬改定では、訪問診療料において、「同一建物居住者の場合」の点数が約半分に引き下げられるとともに、点数を算定するにあたっては、別紙様式 14 を添付することが必要となった。その後、9月5日の事務連絡において、「原則として明細書の摘要欄又は症状詳記に必要内容が記載されていれば差し支えない」とされた。事務連絡により、事務量や紙の量は幾分か軽減されたものの、明細書の摘要欄には、同一日に訪問診療した同一建物居住者の患者人数、訪問診療が必要な理由等のほか、要介護度、認知症の日常生活自立度の記載が依然求められた。
別紙様式14は実質的に廃止されたが、協会としては、これらは次回改定において、訪問診療料の要件とされるのではないか、具体的には、対象患者を「要介護度4以上」または「認知症の日常生活自立度判定基準におけるランク㈿以上」で線引きされるのではないか、また別紙様式14に記載が求められていた診療時間についても、歯科の訪問診療ですでに診療時間20分以上との要件が導入されており、医科の訪問診療へも導入されるのではないかと危惧している。そのため、要介護度などによって訪問診療の必要性を線引きできないことを明らかにすべく、アンケートを実施、その結果に基づき、厚労省に要望書を手渡した。
厚労省交渉での協会からの主な要望内容は3点。1点目は、明細書の摘要欄などに要介護度や認知症の日常生活自立度に関する記載を求めることをやめること。また、在宅患者訪問診療料2の点数を引き上げること—。
これに対して厚労省は、「中医協での議論が始まるよりも少し前から、訪問診療について一部の過剰な訪問診療を行っている医療機関(以下、不適切事例)が問題視され、中医協ではその対処方法のひとつとして別紙様式14が作成された。その後、記載内容が多すぎたため、医療機関への負担が大きいとの指摘を受け、項目を厳選し、9月5日の事務連絡の形式に落ち着いた」と経過を説明したうえで、残った記載項目については「常識的な範囲」との見解を示した。
現在、中医協では医療機関および施設への訪問診療に関する調査を行っている。このことから、協会は、「少なくとも中医協が集計や分析内容を再検討するまで、記載を猶予すべき」と要望したものの、期待した回答は得られなかった。
2点目の要望は、次回改定において、在宅患者訪問診療料に要介護度や認知症の日常生活自立度に関する要件および時間要件を導入しないこと—。
これに対して厚労省は「現時点で、要介護4未満の患者は訪問診療が必要ではないと考えているわけではない。要介護度等だけで訪問診療の必要性を線引きするのはあまりに乱暴」とした。その一方で、「全く関連性がないわけでもない」とし、今後の方向性に含みを持たせた。また協会からの「記載事項は、次回の改定に向けてのデータ収集が目的か」との質問に対し、厚労省側はそれを否定。不適切事例への対応であることを強調した。
さらに3点目として、在宅時医学総合管理料および特定施設入居時等医学総合管理料において、同一建物居住者とそれ以外の場合に分けたり、患者の居住の場によって点数差を設けたりしないことを要望した。厚労省は、「在宅医療を推進していることもあり、比較的高い点数をつけ、比較的要件を緩く設定してきた。しかしそうなると必ず不適切事例が起こり、点数を下げざるを得なくなる」と説明した。
すべてにおけるキーワードは「不適切事例への対処」である。確かに事例は報告されているものの、全体から見ればほんの一握りの医療機関である。対処について先行すべきは悪徳な紹介ビジネスを行う業者への行政指導であること、一部の不適切な診療を行う医療機関のために、点数を引き下げ、訪問診療の医学的必要性と直接的に関連しない記載を明細書の摘要欄等に求めることは、真面目に在宅医療に取り組む医療機関に負担をかけるばかりである。あらためて協会から、不適切事例への対処に関する方向性を再考されるべきであることを主張し、交渉は終了した。