寄稿 「医療事故調」の趣旨は再発防止  PDF

寄稿 「医療事故調」の趣旨は再発防止

弁護士 莇 立明

 「医療事故調」の創設は、多くの医療関係者の意見が錯綜していたが、紆余曲折を経て、医療法改正の形で2014年5月18日成立、以後の省令や通知で具体化され、2015年10月1日から施行の運びとなった。しかし、これも政府・厚労省の立法形式であり、医療現場や国民の声をどのように反映したものかは、なお施行までの期間に寄せられる各界関係者の意見と施行後の運用如何にかかっている。
 京都府保険医協会は、この制度について過去何度も声明や関係理事などの意見を公表し、本年2月23日林副理事長談話「医療従事者の責任追及と切り離した事故調査制度の構築を」を発表した。
 事故調の問題は、長年に及ぶ患者側、医療側の対立したまとまらない議論のままに、十分なコンセンサスが得られないままのスタートである。端的に、本制度の目的は何にあるのか、医療事故の原因究明なのか(関係医師らへの学習)、医療の安全・再発防止のための対策検討、遺族への説明(ひいては責任の所在の解明)にあるのか。意見が輻湊している。
 法文によってはっきりしていることは、病院が事前に想定(予期、予見)しておらず、患者に説明していなかった事態がおき、患者が死亡した事故のみが対象となる制度なのである。この制度は、このような予見外の死亡事故についての、院内関係者への学習(原因の医学的検討)と遺族関係者への説明(誠実な対応)を尽くすことにあると見られるのである。
 5月30日発表の日本医療法人協会の「医療事故調運用ガイドライン」最終報告書でも、本制度は医療安全の確保を目的とし、紛争解決・責任追及を目的としない。関係医師に対する非懲罰性・秘匿性を守るべきこと、院内調査が中心であり、且つ、地域ごと・病院ごとの特性に合わせて行うべきであることを原則とすべきと書いている。
 本誌連載「続・記者の視点」の筆者が2925号において「徹頭徹尾、医療側の都合を優先させ、遺族をないがしろにする内容だ。医師の責任追及が十分可能な制度にすべき」とする意見を出されたが、制度趣旨への誤解によるものである。もっと大きい視野で見ていただきたい。本制度発足に関わられた樋口範雄東京大学大学院法学政治学研究科教授らの意見でも「本事故調は、あくまで院内における医療専門家による原因調査が基本であり遺族の事情聴取は行わない。従来の考えと違って、医療界の自主的努力に大きく依存している点が決定的だ」とされる。
 大きな誤解を解く前提として、以下3点を指摘する。
 第1点は、今回の事故調は公的な国家機関でなく民間の機関である。2008年策定のものは公的機関で強い権限を持つこととされ、また、事故の調査は医療専門家により行うとされていた。しかし、今回は民間機関であるから調査権限も強制ではない。
 第2点は、いきなり第三者機関としての事故調で原因調査が行われるのではない。まず行われるのは、病院の院内調査である。それでは信用力や透明性の点で問題があると言われるが、改正法では事故調で調査支援の仕組みを作るとしている。実効性あるものを期待するしかない。
 第3点は、「医療事故調」は何をするのかだが、まず事故を起した医療機関の院内事故調査報告書を吟味して内容を確認するとある。かかる情報の内で再発防止策に繋がるものを全国の医療機関に伝えるとしている。そして極く例外的に、遺族の要請で事故調が自発的に調査にのりだすこともあり得るとする。それは、どのような場合か、これからの検討会などの論議に委ねられる。

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