委員による確認前の法案提出に疑義/たん吸引検討会
6月15日に成立した改正介護保険法が国会に提出される前の段階で、介護職らにたん吸引などの実施を認める部分を「介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制度の在り方に関する検討会」(座長=大島伸一・国立長寿医療研究センター総長)の委員らが最終チェックできなかったことに不満の声が上がっている。同30日の検討会では、政府の制度設計プロセスに疑問の声も上がるなど会合は紛糾。大島座長が自身の責任問題に言及するまでに至った。
改正法案を国会に提出する際の検討会委員への連絡は大島座長だけに行われた。大島座長によると、その際、条文などに関する詳細な説明はなかった。厚労省は会合で、全委員に連絡しなかった点を陳謝した一方で、たん吸引などを認める部分の法律案は、同検討会が10年12月13日の会合で了承した中間取りまとめが骨子になっていると説明。制度の詳細は、同検討会の議論に沿って今後、政・省令やガイドラインで定めるとした。
これに対し委員からは不満が噴出。平林勝政委員(國學院大法科大学院特任教授)が「細部をどうするかで大枠も変わる。こういうやり方で本当に良い制度ができるのか」と述べ、「法律で大枠、政・省令で詳細」という従来の制度設計手法自体に問題があると指摘した。たん吸引の制度に関しては「条文では利用者の特定・不特定の区別があいまい。提出前に一度検討できれば何か方策が考えられたかもしれない」と述べ、法改正に比べて変更が容易な省令で利用者の区別を定める設計となっている点を危惧した。
三上裕司委員(日本医師会常任理事)も「(同検討会の)最終取りまとめが出る前に法案が提出されてしまい、検討会がないがしろにされている印象」と不快感を示した。その上で、この日の会合で示された試行事業結果のヒヤリ・ハット事例などから、対象者の違いや、たん吸引などの行為の範囲ごとの難易度の違いが明確になったと指摘し、法律上の区別が必要だったと強調した。
このほか、川村佐和子委員(聖隷クリストファー大教授)や因利恵委員(日本ホームヘルパー協会長)も制度設計の不十分さを指摘した。
これらに対し大島座長は、国の制度設計プロセスでの有識者や市民の関わり方については模範モデルがないとの認識を示した上で、「(同検討会の役割は)関係者の総意を取りまとめることであり、それを国がどういう判断で法律に反映させるのかは、検討会の責任ではないという認識だった」と述べた。一方で、同検討会の責任の範囲や影響力について確認を怠った点を認め「(そういう点で)収拾できなければ私の責任。座長を辞めることは簡単だが、それで責任が取れるのだろうか」とも述べた。
この日の会合では政・省令で定める制度の詳細に関する議論が不十分だったため、検討会委員の一致した意見として、政・省令策定前の7月中に会合の追加開催を要求したが、厚労省は、12年度の制度開始に向け、11年秋には政・省令を提示する日程上の都合などを理由に、明言を避けた。(7/5MEDIFAXより)