大島堅一立命館大教授が原発コストで講演/再生可能エネルギーへの転換を  PDF

大島堅一立命館大教授が原発コストで講演/再生可能エネルギーへの転換を

大島堅一立命館大教授

福島原発事故の被害

 東日本大震災は被災地域に未曽有の被害を与え、地域経済はもちろん住民の生活基盤を根こそぎ奪うものとなってしまった。更に追い打ちをかけるように、並行して福島第一原発事故が起こっている。この事故は、天災部分と人災部分が複合的に重なった多重災害だと考えており、これからの支援を考えていく上で、重要な視点だと考えている。

 福島第一原発事故の被害は、大きく分けて、人的被害と経済的被害が挙げられる。人的被害は、内部被曝を全く測定しないまま、事故対応に投入された約7000人の原発作業員と、情報公開の遅れや国の曖昧な放射線量限度値に晒された多くの国民が該当する。今後、晩発性障害といわれる、大規模な健康被害が発生することが予想され、長期にわたり健康管理を行わなければいけない対象となる。しかも、発がんリスクが高くなるというような、発病の原因特定が困難な非特異性疾患が増加することで、今までの環境公害問題の被害補償のあり方とは違う取り組みが必要となる。

 経済的被害は、現在進行している実際の汚染。農業、畜産、水産業、観光産業などへの風評被害の問題などがある。観光産業でいうと、被災地だけではなく、原発のある地域や、日本へ来る外国人観光客自体も減少している。これらも経済的被害に含まれる。

 こうした被害に対して、どのような補償を行うかが現在検討されており、次回臨時国会で法案化し、成立させようという動きがあるが、被害補償スキームは、被害の総体から全てを補償するという完全救済の仕組みを作成する必要がある。

 東京電力の資本から救済を設計すれば、一部補償となる可能性がある。国策として原発を推進してきた国の責任はもちろん重く、東京電力の資産をすべて投げ打っても救済できないということになれば、国からの財政出動も行わなければいけないと考えるが、早々に国が補償を補てんすることになれば、大事故を起こしても国からの財政出動があるという企業側のモラルハザードを起こす要因にもなりかねない。

「安全神話」から人災

 なぜ福島第一原発事故は起こったのか。従来、原子力発電は、石油代替エネルギーとして経済的にも優れ、二酸化炭素を排出しない、環境にやさしい優れたエネルギーと喧伝されてきた。一方で、企業や国から支出される寄付金や交付金などで、地元対策が行われ、さらに、政治・官僚・財界・学者などが中心となり、メディアも巻き込み、利権を誘導してきた。こうした力が原動力となり、原子力開発は推進されてきており、その中で、繰り返し「原発は安全である」との安全神話を確立させ、利益複合体自身が、自らもその安全神話に心酔していったと思われる。

 今回の事故は、研究者の論文や過去に繰り返されてきた訴訟、あるいは外郭団体である原子力安全基盤機構ですら、地震や津波による原発損傷の危険性を予見・指摘し、警告していた。残念ながら、起きるはずがないと国や企業が安全対策を怠ってきたことは明白であり、明らかに人災であると考える。

 事故後の対応についても、建屋の水素爆発などを見ても分かるように、政府が緊急事態宣言を行った翌日には、1号機の格納容器内で圧力が異常上昇し、政府が圧力を逃がすよう指示。これをベントというが、実際に東京電力がベントを行ったのは指示から9時間後ということが分かっている。結果、建屋の爆発という事態に陥っており、これは1号機のみならず、2号機・3号機でも同じ状態である。こうした事実から、迅速に対応すれば防げたにも関わらず、その対策を行わず、被害を拡大させたという点で、企業側の過失である。

原発の本当のコスト

 原発は、エネルギー安全保障神話と安価神話、そして温暖化対策の要を推進力として、維持拡大が進められてきている。エネルギー安全保障神話は、ウランは石油代替エネルギーで、しかも使用済核燃料からプルトニウムを抽出し、リサイクルを行う。このことから準国産エネルギーであり、枯渇しないというもの。安価神話は、石油や天然ガス等の他のエネルギーより原子力の1キロワット時当たりの金額が安いというもの。温暖化対策の要というのは、発電時に原発ではNO2が発生しないということを指している。

 では、実際に原発は、他のエネルギーよりも安価と言えるのか。我々が電力に関して払っているお金には2種類あり、1つは電気料金を通じて払っているお金。もう1つは、エネルギー政策を通じて、政府から財政支出される税金がある。また、法律に裏付けされた電力料金を通じた追加的負担も、電気料金を通じて徴収されている。

 電気料金に含まれているものは、燃料費、建設費、原価償却費、メンテナンス費用など発電に直接要する費用。また、使用済燃料再処理費用、放射性廃棄物処分費用、廃炉費用などのバックエンド費用。開発費用、立地費用への国の財政支出。事故に伴う被害と被害補償費用が挙げられる。

 このうち、発電に直接要する費用とバックエンド費用のみで、電力にかかる料金を試算すると、1キロワット時当たり、火力が9・8円、原子力が8・64円かかるという計算となる。電源開発促進税などから財政支出される税金を上乗せすると、1キロワット時当たり火力は9・9円、原子力は10・68円となる。このことから、電源別のコストは、原子力単体で見た場合であっても安いとは言えず、さらに、電気料金を通じて支払われる税金を考慮すると、原子力のコストが最も高く、消費者負担が大きいと言える。

 また、原子力発電では再処理を行っている。電力会社は、この使用済核燃料の再処理を総額11兆円と試算しており、その他のバックエンド費用と合計すると18兆8800億円となる。しかし、この試算では、劣化ウランの再処理やMOX燃料から出される使用済核燃料が対象外となっていたり、再処理については、現在の六ヶ所再処理工場のみの評価で試算しているが、この工場の処理能力では、約半分しか再処理できない。また、高速増殖炉に対する事業も対象外となっている。

 高レベル放射性廃棄物、TRU(超ウラン元素)廃棄物地層処分廃棄物の具体的計画もなく、世界的にも大規模に実施した例はない。この点に関しても不確実と言わざるを得ない。

 さらに、費用推計も再処理工場の稼働率を100%としている。メンテナンスや補修をすることを考えると、どんな工場でも稼働率が100%ということはあり得ない。

 資源の経済性についても、ウラン燃料をプルトニウムにした場合、電力会社は市場での価値は9000億円と記載している。約12兆円かけて再処理をし、そこから生成される燃料の価値が9000億円しかないというのであれば、余りにも経済性がない。

再生可能エネルギーへ

 推計にあたっての疑問を度外視したとしても、バックエンド費用は莫大な額にのぼる。これらの費用を電気料金に含めて徴収する制度が構築されてきた。再処理費用をいくら支払っているかは電力料金に明示されていない。これは再生可能エネルギーとは著しい違いである。消費者が現在負担している費用は、あくまで六ヶ所再処理工場での再処理に関するもののみである。全量再処理するのであれば、さらに必要になる。こうした高コスト事業に、国民的合意がとれるかどうかは、甚だ疑問である。

 一方で、再生可能エネルギーについては、風力であれば音の問題など、環境への負荷がない訳ではない。しかし、こうした問題をきちんと規制し、インフラ整備を行えば、災害やテロに強く、燃料費も要らない分散型エネルギーとなる。また、雇用効果も期待できる。実際、各国ではこの数十年、毎年2割から3割の成長率を示しており、EUでは再生可能エネルギーのシェアを20%に、という目標のもと、民間がビジネスとして計画を立てている。

 事故費用を考慮しなくても、原子力発電は、国民にとって大変コストの高い電源である。使用済核燃料の再処理にも多額の費用がかかり、今後もコストは上がっていくと類推できる。また、今回の事故を受け、事故費用はこれまでの原発事業報酬を上回る可能性がでてきた。コスト面では、莫大な費用がかけられたエネルギーと言える。それに頼る生活を今後も続けるかどうか、非常に大事な岐路である。

 今後は、今までの原子力一辺倒の政策を改めて、再生可能エネルギー中心の政策へ転換することが必要である。事故の被災地である東北は、食糧やエネルギーを供給している要の地である。誰のための復興プランなのか、そのエネルギーの使い方、あり方に対する問いかけが、私たち一人ひとりにされている。人の暮らしの再興と、エネルギー利用のあり方を見直していかなければならない。

ページの先頭へ