外科診療内容向上会レポート  PDF

外科診療内容向上会レポート

 外科診療内容向上会を、京都外科医会、京都府保険医協会、大日本住友製薬株式会社の共催で11月8日に開催。大阪医科大学外科学講座胸部外科学教室教授、大阪医科大学附属病院心臓血管外科診療科長の勝間田敬弘氏が「大動脈瘤の外科治療─ステントグラフト導入後の大動脈瘤切除術のあり方」について講演した。

大動脈瘤外科治療でパラダイムシフト ステントグラフト治療で

 高齢化社会の到来とともに、成人の大動脈疾患の手術件数は急増している。この講演では、胸部、腹部、胸腹部大動脈の動脈硬化性動脈瘤の手術適応、手術手技について述べられた。胸部大動脈瘤では2009年企業製ステントグラフトが薬事承認されて以降、胸部下行大動脈瘤の外科治療は人工血管置換術からステントグラフト治療にパラダイムシフトを起こした。
 ステントグラフト治療は人工血管置換術と比較して㈰開胸しない㈪人工心肺を使用しないという点で低侵襲であり、高齢者、開胸手術既往、呼吸機能低下、腎不全等の人工血管置換術がハイリスクと考えられる患者が適応となる。12年の日本胸部外科学会年次報告では、胸部下行大動脈瘤手術数は人工血管置換術382例、ステントグラフト手術900例で、病院死亡率は人工血管置換術5・0%、ステントグラフト2・6%であり、主要合併症発生もステントグラフト57・9%、人工血管置換術78・7%とステントグラフトが優れていた。
 胸部下行大動脈瘤でのステントグラフトの良好な成績と比べ、弓部大動脈瘤では大動脈の屈曲によるエンドリーク(グラフト周囲への血液のもれ)の可能性と脳梗塞の発生頻度が高いことから、ハイリスク症例のみに限定されている。胸部上行大動脈は現在でもステントグラフトの適応となっていない。
 胸腹部にわたる大動脈瘤の手術成績は、12年の報告では病院内死亡が待期例8・8%、破裂例32%と高率であり、ステントグラフトの導入により成績の向上が期待される領域である。ステントの改良や人工血管置換術との併用等が試みられているが、現在はまだ保険適応外である。
 次に腹部大動脈瘤の治療であるが、06年に企業製ステントグラフトが認可されて以降、ステントグラフト治療が増加し、12年には腹部大動脈瘤手術の約半数(47%、7600例/年)でステントグラフトが行われている。ステントグラフトは人工血管置換術と比べて手術成績(手術死亡、合併症発生)が良好であることが知られている。早期成績で優位であったステントグラフトの生存率は術後2年で外科手術と同等となり、瘤関連死亡回避も術後6年で優位性は消失している。
 ステントグラフトが外科手術と同等の長期予後を得るためには定期的なフォローアップと適切な時期に追加治療を行うことが重要と考えられる。
(西京・曽我部俊大)

ページの先頭へ