外科医は本当に多いのか? 日本外科学会での議論に一石を投ず  PDF

外科医は本当に多いのか? 日本外科学会での議論に一石を投ず

 第116回日本外科学会定期学術集会の4月14日の特別企画「外科医の待遇—明るい未来のために—」で、元東北薬科大学病院長の田林晄一氏が基調講演で「地域医療構想や新専門医制度においては、外科医や施設の数のコントロールと集約化が必要だ」と指摘したとの報道がありました。諸外国に比べて外科医は多いとして、地域医療構想や新専門医制度によってその適正化を行い、それにより処遇改善を実現すべしとの提案です。

 この記事を読んで、私は違和感を覚えました。私がまだ大学病院で外科をやっていたころの外科医の仕事は、ただ手術をするだけではありません。今でもそうだと思います。

 術前の患者さんの評価、持病、合併症などを把握して、手術の適応があるか、患者さんの持つ合併症などを考え手術方法を決めていく。そして実際に手術。そして術後の管理、ここでは外科的侵襲を加え内科的な管理も必要になってきます。内科の専門的な治療が必要ならば、一緒に治療にあたり、退院後も定期的に術後の状態を外来で診察します。

 こういった経験をするからこそ、開業医となった時にも外科だけではなく、内科も診療できるのでしょう。

 ただ単に手術だけをして、術前、術後の管理をしない。そういったまさしく技術者としてならば、外科医の数は多いのかもしれません。

 患者さんの立場から考えると、手術してもらう医師に術前、術後もしっかりかかわってもらえるといったことが、手術への不安を取り除き、信頼が生まれてくるのだと思います。こういった患者さんとのかかわりを考えると、外科医が多いとは思いません。

 全ての病院に外科医が必要かという論点も上がっていましたが、都市部では病院が多数あって、場合によってはそれぞれの病院で、得意な外科分野に特化して、各病院間で患者さんの病気によって連携をしていくという方策も考えられます。高度急性期病院、急性期病院で手術して、その後受け皿の病院に転院し術後の管理、外来診療を行うといったことも考えられますが、その際も外科的立場で患者さんを診ることも必要だと思います。

 患者さんの立場では、やはり自分が住んでいる地域で入院加療できることが、経済的にも、精神的にも負担が軽減されるのではないかと思います。医療を提供する立場からだけでなく、患者さんの立場でも考えていかなければなりません。

 都市部以外においても、病院に全ての外科系の医師がおり、治療が受けられる態勢が理想だと思いますが、手術を必要とする患者さんの総数から考えると、現実的ではありません。まずは、手術を受けるためのアクセスをよくすることが必要だと思います。

 外科医の処遇改善ですが、信頼できるチームが多数あることでも改善できるのではないでしょうか。私が大学にいたころは、1チームは4人態勢でした。一つのチームが20人程度の患者さんを受け持っていました。当直も4人です。チーム間の信頼関係で、休むことができます。

 また、手術以外の業務で忙しくなっており、「専門的業務が希釈されている」との指摘がありますが、「手術は手でやるのではない。頭でするものだ」と私の父はいつもいっていました。大学時代の先輩医師にも私が執刀医になった時、「お前、今日執刀医だけど、何回頭の中で手術をしてきた?」と聞かれました。手術を行う前には何回もイメージトレーニングし、そのイメージと実際の手術での違いをしっかりと検証していくことで上達していくのだと思います。また他の医師の手術に立ち会うことでも、手技の上達に寄与すると思います。「手術症例数をこなせばうまくなる」のではありません。

 私も含めて医師は、いろんなことをみているようでみていない。みる方向が違っているのではないでしょうか。

(西陣・渡邉賢治)

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