国民健康保険法一部改定法案の解説/進む国保都道府県化の意味と展望  PDF

国民健康保険法一部改定法案の解説

進む国保都道府県化の意味と展望

 「国民健康保険法の一部を改正する法律案」(以下、国保法改定案と表記)が2月3日、国会に提出され、3月28日に衆院厚労委員会を通過した。社会保障・税一体改革大綱には、「市町村国保の低所得者保険料軽減の拡充など財政基盤の強化と財政運営の都道府県単位化」が盛り込まれている。今回の国保法改定案も「一体改革関連法案」と見る必要がある。

 以下、今回の法改定の内容を紹介する。

財政基盤強化策の恒久化

 国保法改定案は三つの柱で構成されている。

 第1は、「財政基盤強化策」の恒久化である。

 これは、従来暫定措置として実施してきた、?保険者支援制度、?都道府県単位の共同事業(高額医療費共同事業、保険財政共同安定化事業)を2015年度から恒久化するもの。

 ?は、市町村国保の財政基盤強化のため、低所得者を多く抱える保険者への財政支援制度であり、国が二分の一、都道府県と市町村が四分の一ずつ負担している。

 ?のは、1件80万円超の高額医療費について、都道府県内の全市町村が拠出し、なおかつ国・都道府県が事業対象の四分の一ずつ負担する仕組み。は、1件30万円以上の医療費について都道府県内の全市町村が拠出し、共同で負担する「再保険」の仕組みである。

財政運営の都道府県単位化の推進

 第2は、上記?のの仕組みの改正である。(図1)

 2015年度から、保険財政共同安定化事業の対象医療費について、現行の1件30万円以上を1件1円以上にするという。すなわち、従来は30万円未満までの医療費について、保険者である「各市町村の財布」から直接支払っていたものを、法改定で原則すべての医療費が「共同プール金の財布」から支払われることになる。

財政調整機能の強化

 第3は、2012年度から定率国庫負担を現行34%から32%に引き下げ、代わりに都道府県調整交付金を現行7%から9%に引き上げることである。(図2)

 都道府県調整交付金は、2005年の「三位一体改革」の「税源移譲」で創設された。その際にも「地方の裁量権拡大」が語られ、都道府県調整交付金に見合う定率国庫負担が削減された。「都道府県による調整機能の強化」が、今回も目的に掲げられている。

国が以前から志向してきた「都道府県単位化」

 実は保険財政共同安定化事業の対象医療費拡大に関し、2年前にもこれを促す法律改定が行われている。「医療保険制度の安定的運営を図るための国保法等改正」(2010年5月成立)である。それは、都道府県に「市町村国保広域化等支援方針」策定を求め、対象医療費引き下げを方針に書き込ませて、自ら圏内の国保財政広域化を行わせようとするものだった。

 しかし、2011年9月末現在、同支援方針を策定した46都道府県(新潟県を除く)のうち、保険財政共同安定化事業の対象医療費引き下げを盛り込んだのは、埼玉・滋賀・佐賀の3県にとどまった。国はこうした状況を打開すべく、その義務化に舵を切ったといえる。

 国は対象医療費引き下げで、市町村間の保険料等の格差が最大50%縮小するとしている。加えて、広域化支援方針に「標準的」な「保険料算定方式」・「保険料・一部負担金の減免基準」を定め、取り組みを進めれば国保財政の都道府県単位化がいっそう進むという仕掛けである。

国はなぜ、都道府県単位化をめざすのか

 なぜ、国は国保の都道府県単位化をめざすのか。そこには二つの理由がある。

 一つは、「財政危機」への対応である。

 市町村国保の財政危機が叫ばれて久しい。国保特別会計はいずれも厳しく、単年度収支差額に限っても、実に52.4%の市町村が赤字である(2010年度)。多くの市町村は一般会計から「法定外繰入」等を行っている。

 国はこうした財政難の原因について、「構造的な問題」と述べる。?被保険者の平均年齢構成が他の保険者に比べて高く、1人あたりの医療費水準も高いこと、?被保険者1人あたりの所得水準が低く、保険料軽減対象となる被保険者が全体の40%を超えていること、?被保険者1人あたりの所得に対する保険料負担が重いこと、?以上の現状がある故に、保険料収納率の低下も著しいこと、?市町村が保険者であることから、人口規模の小さな保険者では、財政運営が不安定になりがちであること、?市町村間の保険料等の格差があること。こうした課題への対応策としての国保改革が必要視され、その具体策として都道府県単位化が目指されているのである。

 二つめは、「医療費適正化」路線にふさわしい制度づくりである。

 2008年施行の医療制度構造改革は、都道府県を単位とした医療費適正化=抑制システムを構築した。都道府県は5年1サイクルの「都道府県医療費適正化計画」を策定し、平均在院日数短縮やメタボリックシンドローム患者・予備群減少率を数値目標化し、医療費の増加幅を抑制することが求められている。都道府県は、同様に自ら策定する「医療計画」(医療法)、「介護保険事業支援計画」(介護保険法)、「健康増進計画」(健康増進法)を通じ、その医療費抑制の実現を目指す主体とされたのである。そのためにも、都道府県が国保財政に責任を負う仕組みにすれば、都道府県は医療費抑制をより自らの課題として捉え、自然と努力するだろう。そのようなねらいも、国保都道府県単位化にはある。実際、2010年8月、後期高齢者医療制度廃止後の新制度を「都道府県単位化した国保」が受け皿となるよう打ち出した「高齢者医療制度改革会議」の「中間とりまとめ」にも次の文言がある。「国保における都道府県単位の財政運営の導入に際し、都道府県の健康増進計画・医療計画・介護保険事業支援計画などとも整合性の取れた、都道府県単位での健康増進や医療費の効率化に向けた取組を一層推進するための体制や具体的仕組みについて検討を進める」。

「都道府県単位化」を乗り越えて

 以上のように、市町村国保の都道府県単位化は都道府県単位の医療費適正化路線と密接な関係を持っている。その方針は、政権交代を挟んでもおかまいなしに着々と進めている。

 社会保障・税一体改革は、医療・介護サービス提供体制改革を目指し、都道府県に対しては、徹底した機能分化・連携による提供体制構築へのイニシアチブ発揮が求められている。国保都道府県単位化はその条件づくりの一環である。

 一方、市町村国保財政の危機打開も焦眉の課題であろう。しかしそれは、あくまで人々の生命と健康を守るために必要なのであって、それを口実に医療費抑制の仕組みを作ることは許されない。京都府はその「広域化等支援方針」を軸に、国保の都道府県単位化に向けた作業を進める一方で「ナショナルミニマム確保の観点から、国に対して国費投入の充実を求める」立場を一貫して主張している。国保が単なる保険制度ではなく、この国に暮らすすべての人に対する医療保障のための制度であることから、この指摘は非常に重要な意味を持つ。医療保障とは国の財政責任において行われるべきものであり、かつ、普遍的な保障でなければならない。都道府県単位化の必要性の根拠に「住んでいる市町村によって同じ所得であっても保険料が違うことは問題」との主張がある。それならば、住んでいる都道府県によって保険料が違うことを了とする根拠もない。その点で、都道府県単位化は明らかに限界のある議論である。それを乗り越えた提案こそが、今求められているのだといえる。

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