台湾環島一周鉄道の旅
北小路博央(北)
台湾には中学時代の同級生がいたり、友好ライオンズクラブがあったりして、何度か訪れる機会があったが、今まで台北で用をすませるだけで現地の鉄道に乗ったことはなかった。鉄道に乗って台湾を一周したい、という私「乗り鉄」の悲願が2008年10月にようやく実現したのである。
台湾鉄道事情
そもそも台湾は鉄道だけで環島一周ができるのか、西部幹線は早くから特急自強号が頻繁に走っている。東部は1970年代までは762mmの軽便鉄道があったり、南部の一部には未通区間があってその間は高速バスでつないでいた。
1992年に未通区間を含めて全て1067mm(日本の在来線のゲージ)の線路で繋がり、自強号による快適な一周の旅が可能になった。加えて2007年1月から台北⇔高雄間に高速鉄道mmの日本新幹線700系を使用)も開通した。また嘉義⇔阿里山間には762mmながら世界三大山岳鉄道の一つに数えられる阿里山森林鉄道があり、今やアジアにおける小鉄道王国の感がある。
台湾高速鉄道に乗る
2008年10月某日、台北桃園空港でガイドの許さん(36歳女性)に出迎えられる。若いのに日本語はペラペラで気働きのよい人、6人グループ4日間の旅を楽しい有意義なものにしてくれた。
高鉄桃園站は地下ホームが南行北行2階建(高雄行の下を台北行が走る)になっている珍しい構造、12輌編成で内部は日本の新幹線と全く同じだが、走りはよりスムーズで揺れない。客室のスピード表示は最高297km、嘉義新站まで約1時間、ほとんど満席の車内が静かなのと清潔なのに感心した。
人口2000万人、環島一周950kmの台湾に高速鉄道が必要かどうかは別として台鉄自慢の目玉路線に違いない。
高鉄の桃園駅地下ホーム
無念・残念、阿里山森林鉄道が一部不通
嘉義⇔阿里山72kmを結ぶ762mmの森林鉄道は1911年木材運搬のために敷設され、2274メートルまで登るのに世界的に珍しい3回転半逆ひねりというスパイラル線がある。ところが今年の台風14号による山崩れで楽しみにしていたスパイラル部分が不通になり、出発直前まで開通を祈っていたがかなわなかった。止むを得ず阿里山公路をマイクロバスで登ることになったが、その公路のひどいこと、おまけに薄暮と濃霧が重なって、手に汗を握るヘヤピンカーブ連続2時間半に及ぶ山岳ドライブを経験した。この日の泊り「阿里山賓館」は上高地帝国ホテルに似た風格のあるホテルであった。
翌早朝、阿里山⇔祝山の森林鉄道(40分)に乗れたことでスパイラル線に乗れなかった憂さを晴らした。祝山展望台からの御来光の一瞬はまさにファンタスティック! 早朝の祝山は2℃、ホテルレンタルの防寒ジャンパーが重宝であった。
嘉義→高雄(泊)→花蓮(泊)→台北は特急自強号で
嘉義→高雄、花蓮→台北間は電車特急、高雄→花蓮間はディーゼル特急だが、いずれもすこぶる快適で、日本の特急より揺れない。路盤工事に力を入れたせいときく。この間、車内販売の「台鉄便当」を賞味、パラパラの米飯の真中に煮て揚げた大きな豚肉が鎮座していてギョッとする。80元(約240円)は安いと思うが…。
台北新站は地下の立派な駅でゴミ一つない。台湾の鉄道にかける思い入れはハンパではない、と感じた。
阿里山森林鉄道(祝山駅)
高雄→花蓮の自強号(ディーゼル)
台鉄便当(車内売駅弁)
台湾寸描
(1)鉄道にはお金をかけ、大事にしている。「鉄ちゃん」としては大満足。
(2)台湾一周950kmの鉄道運賃は高鉄指定券を含めて約7000円、日本の3分の1か(JRなら950kmを特急乗継で行って約2万円)
(3)商工業都市高雄(人口150万)の繁栄ぶりにびっくり、85階建高層ビルからの港の夜景がすばらしい。
(4)外人観光客を大事にする点は日本も少しは見習うべし。
(5)名物の夜市(夜の屋台)はいささか近寄り難いムード。
4日間、快晴と好ガイドに恵まれた楽しい旅であったが、「乗り鉄」としては、高鉄、特急ばかりで鈍行に乗れなかったのが心に残る。
【京都保険医新聞第2672・2673号_2009年1月5・12日_4面】