原因究明と再発防止に徹せよ 医療事故調で意見提出
厚生労働省は3月20日、「医療事故調査制度の施行に係る検討会」の「まとめ」を公表し、10月から始まる制度施行に向けた省令と運用通知で定める内容を打ち出した。
まとめでは、「個人責任追及」型ではないことを強調する一方、検討会で最後まで意見が分かれた院内事故調査報告書の遺族への提供については、文書提出を「義務」ではないものの「努力規定」と、今後の運用に課題を残した。
また、事故報告書の訴訟への利用は排除されず、不確実な医療における予期せぬ死亡事故の定義の不明瞭さは報告者となる管理者の困惑を招きかねず、医療現場の混乱・懸念の払拭に至っていない。
協会はこれらの観点から、パブリックコメントを同副理事長名で厚労省に提出した。意見は、法の趣旨同様に医療安全の維持・向上のため原因究明と再発防止に徹し、医療従事者の責任追及に迫るシステムでないこと、「WHОガイドライン草案」に準拠すること、解剖等への公費負担を求める内容となっている。
協会からの意見
以前より、医療安全の維持、向上のために医療事故の原因を究明し、再発を未然に防止する制度の必要性が議論されてきた。しかし、この制度は医療従事者の責任追及に迫るシステムであってはならない。京都府保険医協会としてはこの点を強く主張し続けているところである。
2005年に提唱された「有害事象の報告とそれに学ぶシステムについてのWHОガイドライン草案」は、「当事者の責任追及」と切り離した「医療事故調査制度」といえる。2014年10月に日本医療法人協会の「現場からの医療事故調ガイドライン検討委員会」の最終報告書は、当会が支持する「WHОガイドライン草案」に準拠した内容と評価し、当会は、2015年2月10日第16回理事会においてこの日本医療法人協会のガイドライン案に賛同することを確認している。
厚労省の検討会では、遺族への説明を巡り、医療担当者と遺族側間で対立・決裂した。今回の「まとめ」では、「口頭又は書面若しくはその双方の適切な方法により行う。遺族が希望する方法で説明するよう努めなければならない」と当該医療機関の管理者に丸投げされた。苦肉のまとめは、玉虫色の文言となり、当事者間の力関係に委ね、問題の先送りと非難したい。
また、院内調査結果報告書の取扱いが紛争処理の材料として使える方途に含みを残したことも問題として指摘しておきたい。
医療は患者と医療者の信頼関係の中で成立する。不信感が残ったままで制度が実施されることは、あまりにも乱暴である。制度実施の延期も視野に入れてもよいのではないか。運用に関して疑問が絶えない新制度では不安ばかりで現場は萎縮し、どうしていいのか困惑してしまう。
充分な議論を尽くし、互いに歩み寄った上、その調査対象になった事故そのものの解決を保証しなければ真の原因究明には至らない。医療事故調査制度の目的である医療事故の原因究明と再発防止という法の趣旨に則り、解説のいらない通知やガイドラインが例示された上で医療提供者も安心して制度が実施されることを望むものである。
なお、国としての制度である以上、解剖費用、調査費用、支援団体の運営費等本制度に関わる費用は公費負担することを求めたい。
以下、個別の項目について意見を述べたい。
(1)「予期せぬ」の言葉の定義をまず明確に示し、その上で、対象は院内調査の結果「原因不明」の予期せぬ死に限定されたい。
予期しなかった死亡、死産として厚労省は年間2000件を想定しているというが、どのような場合を報告すべきか、具体的なケースを示す必要がある。そうでなければ、このままこの制度が実施されたら、真っ先にこの“予期しない”という言葉が独り歩きをして医療現場は大混乱に陥る可能性がある。せっかく作った制度で混乱をきたすようでは、何のための制度かということになるであろう。
(2)「医療事故調査・支援センター」は「医学医術に関する学術団体」と「その他の厚生労働大臣が定める団体」の双方設定される予定なのか。また、この二つの団体として指定されるべき資格は何か。
(3)遺族の定義は? 子どもなら全員対象か? いつも見舞いに来る子どもだけでいいのか不明。「遺族側で遺族の代表者を定めて、遺族への説明等手続きはその代表者に対して行う」とあるが、代表者は1人か。複数ということはないか。
入院患者の場合は、あらかじめ、患者が指定した親族・近親者ないしその代表者に説明すれば足りるとすべきだろう。
(4)院内事故調査委員会や医療事故調査・支援センターの行う調査に関する委員を外部の専門家に委嘱してよいか、その場合の守秘義務はどうなるのか?
(5)原因究明には、解剖が必須のことと思慮する。そのためには、解剖医の充足と解剖施設の充足が必要である。また解剖費用にも、財政措置等がなされるべきだと考える。「まとめ」の中では、遺族の同意が必要とされているが、解剖が明らかに不要の場合に限定すべきだろう。
(6)院内調査費用は全額、当該医療機関の負担か? センター調査費用は公費か?
(7)個人診療所ではいかに匿名化しようとも報告書で医師が特定されることの問題はどうするのか。
(8)各都道府県の支援団体への補助金はあるのか。また、支援団体にセカンドオピニオンを求めることによって、公正をきすことができるのではないか。
支援団体は各地区で複数必要である。調査の結果に医療側、患者側いずれかが納得できない場合、直ちに裁判など他の場へ持ち込むのではなく、他の支援団体にセカンドオピニオンを求めることによって、さらに公正をきすことができ、双方にとってもより理解が進み、この制度の精神にも適うものと思われる。
(9)一調査不再理になるのか。
(10)死亡を惹起させた可能性のある故意の行為の有無を解明するには、院内での医療事故調査では不足と考えるが、例えば医療機器や薬剤容器などに残された指紋の採取の必要な場合にはどのような事情が予測・想定されるか?
(11)異状死体とは外表に異状のある死体とされる(最高裁判決平成16年4月13日)が、京都府内での夫を数人、青酸カリカプセルで殺害した事例もあり、しかし、口腔粘膜等にも腐食等の変化もみられぬが、そのような場合はどうしたものであろうか?