医療費無料化だけで「うまくいかない」/旧沢内村検証の研究グループ
戦後、全国に先駆けて老人医療費の無料化を行ったとして知られる岩手県・旧沢内村(現西和賀町)について検証してきた岡山大などの研究グループは8月11日、「患者負担の無料化が効果を発揮するには、保健と医療を一体とするシステムづくりが必要」などとする検証結果を発表した。同大医学部の浜田淳教授は「無料化が成功したのは、保健教育の徹底などの施策が併せて行われたから。高齢者や子どもの医療費を無料化する自治体が出てきているが、それだけではうまくいかない」と話している。
旧沢内村では、1960年から村内の国保沢内病院を外来受診した65歳以上の高齢者について医療費の無料化を開始し、61年には対象を乳児と60歳以上に拡大。隣接する旧湯田町と合併した2005年まで続けられた。
同村では当時、村内の地域ごとに住民から「保健委員」を選び、保健師とともに保健活動を行ったほか、住民への保健教育を徹底。国保沢内病院の副院長を村の健康管理課長が兼務し、村の保健師は病院で勤務させるなど医療と保健の連携を図った。研究グループによると、こうした施策によって、老人の医療機関の受診率が増加しても、医療費の伸びはそれを下回り、国保被保険者1人当たりの医療費も大幅に低下したという。
近年、後期高齢者医療の自己負担分や子どもの医療費を無料化する自治体が出てきているが、研究グループの宇野裕・日本社会事業大専務理事は「非常に危険」と指摘。浜田教授は「無料化が過剰受診を生み出して過大な財政負担にならないか、コンビニ受診を誘発して医師の勤務をさらに過酷にしていないか、慎重に検証する必要がある」としている。(8/12MEDIFAXより)