医療費を都道府県が目標管理 麻生財務相が総額管理制度を提唱  PDF

医療費を都道府県が目標管理 麻生財務相が総額管理制度を提唱

 経済財政諮問会議(4月22日)の席上、麻生財務大臣が、レセプトデータを活用した国・都道府県・保険者単位の医療費「抑制目標」設定を提案した。

 これはかつて医療者の猛烈な反対で実現しなかった「医療費総額管理制度」の再提起である。

 安倍政権が6月にもまとめる新たな成長戦略で医療産業化は重要な柱となる。その基盤整備と給付抑制策の確実な構築は、今や政権の至上命題の一つといえる。矢継ぎ早に打ち出される混合診療解禁策とあわせ、今回の提起も決して超えさせてはいけない一線を踏み破る企みの浮上である。安倍首相は議論を受け、「具体化に向けた検討を進めてほしい」と指示したという。

レセプトデータを活用

 ホームページ上に公開された経済財政諮問会議の議事要旨には、麻生財務相の発言が次の概要で記されている。

 レセプトデータは極めて優れた情報データであり、分析に必要な医療情報は既に存在している。これをどのように医療費の効率化に活用するかが一番の問題だ。レセプトデータを用いれば、例えばある市では、医療機関の外来で処方する薬剤のうち、ジェネリック医薬品がどの程度使用されているかが分かる。可能な薬剤を全てジェネリックにすれば、どれだけ薬剤費を削減できるかも明確になる。即ち、「あるべき医療需要」を算定することができ、それに基づいて、現状追認でない支出目標を地域ごとに立てさせ、達成させるようにすればよい、ということである。

地域毎に医療費把握

 また、麻生財務相が説明に用いたと思しき会議資料は、その狙いを赤裸々に語っている。

 現在国会審議中の医療・介護総合確保法案に盛り込まれている「病床機能報告制度」と、それを基に策定される「地域医療構想(地域医療ビジョン)」で、都道府県は(一定の強制力=「権限」を付与された上で)将来の医療の「機能別必要量」を定めることになる。

 ただし、都道府県は元々「医療費適正化計画」の策定主体でもある。加えて今後は「国民健康保険の財政運営の責任」も移行(市町村国保の都道府県単位化)されるため、都道府県には「医療費の適正化に大きな責任」が生じてくる。その観点から、費用面を含めた医療需要を地域ごとに算定する必要があるというのである。

 麻生財務相が示した構想は、総合確保法案成立を念頭に、その仕組みを最大限活用する形で都道府県のみならず、国・保険者レベルで医療費の「総額管理制度の実現」を目指すものといえるだろう。

 具体的な手法の骨格はおおむね次のようなものである。㈰医療費の少ない都道府県を「標準集団」として定める㈪標準集団と、各都道府県の年齢・人口構成等を補正して、各都道府県の医療需要を算定する㈫実際の医療費と㈪の乖離の原因(ex後発医薬品使用割合)について、レセプトデータを用いて明らかにし、「妥当な医療支出目標」を設定する㈬その設定目標により、医療費を支出する㈭保険者レベルでも、支出目標を設定し(資料には、フランスの医療費支出国家目標制度(ONDAM)同様の制度だと述べられている)(上図)、その達成度に応じた後期高齢者支援金の加減算を行い、医療費適正化のインセンティブを付与する—。

 後期高齢者支援金の加減算の仕組みは、すでに特定健診・保健指導の実施率に関わって導入され、運用されている。今回の提起はその範囲を大きく広げようというものである。

 都道府県医療費適正化計画は、高齢者の医療の確保に関する法律(2008年施行)により定められた。同計画は08年度を初年度に、医費用の過度な増大を抑えるべく、都道府県に数値目標の設定と「適正化策」の推進を求める仕組みで、すでに第2期(13〜17年度)に入っている。

 現計画で目標とされるのは、特定健診・特定保健指導の実施目標等の生活習慣病対策、たばこ対策や後発医薬品使用促進、レセプトデータを用いた分析に基づく「データヘルス計画」、そして「平均在院日数」の短縮である。

 「平均在院日数」と深く関わる医療提供体制については、同時期の医療法改正により、基準病床数による病床数の抑制に止まらず、具体的な医療機関名を挙げての疾病別・事業別の「連携体制構築」を都道府県に進めさせることを定めている(良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律)。

抑制主役は都道府県

 このように、都道府県を医療費抑制主体に据え、医療計画と医療費適正化計画を軸に目標達成型で医療費を抑えこむ仕組みはすでに稼働しているのだが、総合確保法や国保の都道府県化などを通じて実現する都道府県による医療管理の仕組みが、その実効性をより高めることになるのである。

 麻生財務相は4月28日の財政制度審議会・財政制度分科会でも同様の提起を行っており、その本気度を示している。

 来年の通常国会に市町村国保の都道府県化が法案提出され、都道府県が保険者となる地域保険再編が目前に待ち受けている。都道府県に保険財政の責任・権限を持たせ、そこへ医療費抑制目標を課せられるなら、医療保障主体として機能できなくなるのは自明である。

 こうして実現する医療費総額管理制度は、日本の医療制度が医療者と国民に保障してきた「必要な医療は全て公的保険で受けられる」という制度の在り方を壊すものである。

 あらためて問われるのは、必要な医療を必要なだけ、保険証一枚で受けられる国民皆保険制度の趣旨に沿った制度の在り方を、私たち医療者が国民と共に構想・提起し、実現できるかにかかっている。そのための越えてはいけない一線を守れるかどうかは、私たち現場医療者からの反撃にかかっているといっても過言ではない。

 麻生財務相の資料は、メディペーパー京都5月号に掲載予定。

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