医療訴訟の傾向について思うこと/莇 立明(弁護士)(1)  PDF

医療訴訟の傾向について思うこと/莇 立明(弁護士)(1)

患者側勝訴率が低下しているのは?

 3月10日、京都地方裁判所で専門訴訟(医療関係)の意見交換会が開催された。裁判所から地裁所長をはじめ医療訴訟担当の裁判長計7人、京都府立医大から病院長をはじめ各専門医科関係教授5人、弁護士会から会長をはじめ、医療側、患者側を各担当する弁護士計6人が出席した。議題は医療過誤訴訟における鑑定手続の問題であったが、最高裁より医療訴訟統計の最新資料も提供されたので紹介したい。

 2004年から13年までの統計によると全国地裁の医療訴訟の事件数の推移は漸減傾向にあることが分かった。年間全国で800〜900件台であった新受事件数が09年以降は全国で700件台に低迷している。大阪高裁管内でも減少傾向である。その原因は、2000年代に入って、1990年代末(バブル経済の破綻時代)からの医療事故激発の傾向が引き継がれていたのが、次第に鎮静化して09年から減ってきたためと考えられる。政府事故調発足の動きが始まり、医療事故は多角度から検討され、対策が講じられるようになったことも影響しているのではないか。しかし、医療訴訟の事件数減少傾向とはいえ、医療事故自体は決して減ってはいないであろう。裁判所へ回る事件数が減ったというだけで、自主解決したり各地の医師会、公共団体、弁護士会などのADRなどへ紛争処理を持ち込む件数が増えていると見られる(反面、裁判所の調停制度の活用が激減している)。これは情報公開制度が広く国民に知られて、カルテなどの情報開示が関係者間に進んだ結果とみられる。

 ところで、医療訴訟の特徴としては、解決結果に占める判決の比率は、30%台でずっと推移し、和解率は50%台を続けている。患者の請求の認容率も低下し続けている。09年以降は、20%台に低迷している。これは、患者の請求自体に無理がある事案が多いとみられるためである。患者側を真に救済をすべき案件は、裁判官が医療側に金銭解決を勧告し、和解で解決をしている。医療訴訟自体が白黒を決める形ではなく事案の内容を灰色のままにして裁判官の職権裁量により金銭解決が図られている現実がある(医療訴訟の非訟事件化と言えよう)。この傾向は、医師賠償責任保険制度の発達とその進化、活用によるところも大きいとみられるのである。

筆者紹介

 京都中央法律事務所所長。京都府保険医協会の顧問事務所の弁護士として、約40年間法律問題全般を担当していただいている。

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