医療提供体制の再構築、地域包括ケアシステムの構築と称した医療費削減・抑制ありきの2014年度診療報酬改定に抗議する  PDF

医療提供体制の再構築、地域包括ケアシステムの構築と称した医療費削減・抑制ありきの2014年度診療報酬改定に抗議する

 2014年2月12日、中医協は2014年度診療報酬改定を答申した。本体改定率は0.1%で、医療費ベースで400億円の微増に止まった。一方、薬価・材料価格はマイナス1.36%のため、実質マイナス1.26%の改定となった。消費税増税補填分1.36%が上乗せされたため、見かけ上プラス改定となっている。薬価・材料価格の引下げ分の財源を全て奪い去る今回の改定手法に対して、我々は強く抗議する。そして、実質マイナス1.26%の改定は、地域医療の崩壊をさらに加速させることになる。

 今回の改定は、前回に引き続き、「社会保障・税一体改革」が目指す2025年に向けての医療提供体制の再構築、地域包括ケアシステムの構築を図るための改定である。そのため、医療法改正による対応に先駆けて、「入院医療・外来医療を含めた医療機関の機能分化・強化と連携、在宅医療の充実等に取り組む」ことを重点課題とした改定となったが、その目的は「効率化」という医療費の削減・抑制である。

1.総合診療専門医制度導入を想起する包括点数の導入

 外来医療では、「主治医機能を持った中小病院及び診療所の医師が、複数の慢性疾患を有する患者に対して、継続的かつ全人的な医療を行うことを評価する」として、「地域包括診療料(月1回1,503点)」「地域包括診療加算(1回20点)」が新設される。両点数とも、対象は高血圧症、糖尿病、脂質異常症、認知症の4疾病のうち2つ以上(疑いを除く)を有する患者で、薬剤料は包括されず、当該点数を算定している場合は、7剤投与の減額規定の対象外となる。

 しかし、両点数とも算定要件が厳しい。(a)患者が受診する全医療機関を把握し、処方されている全医薬品を管理しカルテに記載する(b)原則院内処方を行うが、院外処方の場合は24時間対応の薬局と連携する(c)健康診断・検診を勧奨し、結果をカルテに記載する等、健康管理を行う(d)要介護認定に係る主治医意見書を作成するとともに、居宅療養管理指導等の介護保険サービスを提供している−等が求められており、ハードルが高い。

 診療所のみが対象となる「地域包括診療加算」は、上記に加え、(1)時間外対応加算1又は2を算定(2)常勤医師3人以上在籍(3)支援診である−の条件のいずれか一つを満たす必要がある。

 一方、診療所が「地域包括診療料」を届出するには、(1)時間外対応加算1を算定(2)常勤医師3人以上在籍(3)支援診である−の条件を全て満たす必要があるため、届出は困難を極める。そもそも開業保険医は従来から出来高中心で主治医としての役割を果たしてきており、あらためて包括評価を導入する必要はない。また、医療制度改革との関連では、将来的に、本点数を算定する保険医以外への受診が制限されたり、総合診療専門医であることが算定条件になる、という変更も想起される。地域医療のあり方そのものが変質してしまう可能性もあり、認めがたい。

 京都府保険医協会、保団連の活動が功を奏し、「地域包括診療料」「地域包括診療加算」算定の場合は7剤投与の減額規定の対象外とされたことは評価できる。しかし、開業医は既に、複数の慢性疾患を持つ患者に対して、かかりつけ医機能を果たしている。我々はあくまで無条件で7剤投与の減額規定を廃止することを求める。

2.同一建物居住者に対する在医総管の引き下げは根拠なし

 在宅医療では、在宅時医学総合管理料等について、同一日に同一建物居住者を複数人診療した場合の評価が元点数の3割前後まで引き下げられた。当該点数は、在宅患者に対するかかりつけ医機能の確立および在宅での療養の推進を図ることを目的に、患者ごとの総合的な在宅療養計画を作成することが要件であり、同一建物居住者を同一日に複数診療しても、医療の内容が変わるわけではない。根拠のない大幅削減であり、断固抗議する。

 また、訪問診療料の同一建物居住者の場合の評価が元点数の5割に引き下げられた。算定要件が厳格化されるが、不必要な要件厳格化、書類の増加は、医療機関を疲弊させ、在宅医療の広がりに足かせとなるため、通知の発出に当たっては、慎重な対応を求める。

 一方で、常勤医師3人以上は確保されていないが、緊急往診、看取りの実績が十分な支援診・支援病の評価として在宅療養実績加算が新設されたこと、支援診・支援病以外の在医総管等が引き上げられたことは、評価できる。また、介護保険の訪問看護を受けている患者に対し、在宅患者訪問点滴注射管理指導料が算定できるようなるが、10年にわたり保団連、保険医協会が要求していた内容であり、評価したい。

3.維持期リハビリの介護保険への移行を根拠なく強化

 リハビリでは、要介護被保険者等に対する維持期の運動器、脳血管疾患等リハビリの医療保険外しは、入院患者については対象から除かれた。外来患者に対する算定は2016年度改定までの期限付きとされ、あくまで介護保険への移行が求められる。維持期であっても、患者の実態に応じて、適宜医療と介護を選択できるように、取扱いを抜本的に見直すべきである。

 また、過去1年間に介護保険の通所リハビリを実施した実績がない医療機関が、外来患者に維持期のリハビリを実施した場合は9割に減算することとされたが、全く医学的妥当性がなく、単に経済的ペナルティを課しているとしか思えない。さらに、介護保険リハビリテーション移行支援料が新設されたが、「療養の給付」と全く関係ない点数であり、このような露骨な政策誘導は行うべきではない。

4.7対1入院基本料の基準厳格化で医療費抑制を図る

 「効率的な入院医療等の評価」では、7対1入院基本料がターゲットにされた。一般病床全体の49%を占める7対1の施設基準を厳格化し、「高コスト構造を是正(自然増の合理化・効率化)」すると、財務省は説明している。7対1、10対1の一般病棟において、90日超の長期入院患者であっても特定の状態にある者は平均在院日数の計算に入れないという制度を廃止する。重症度、医療・看護必要度の評価を強化する。自院から退院した患者割合に関する基準を新設する。これらの基準強化は2014年10月1日から実施される。

 しかし、看護配置が充実している病院が多いことは、国民に有益なことではないのか。急性期病院に看護職員が集中し、外来・在宅医療に携わる看護職員が不足している現実もあるが、養成すれば良いことである。

 療養病床等では、透析患者受け入れ促進のための評価の新設や、超重症児・者等の受け入れ促進のための算定対象患者の拡大を行う。在宅復帰率に対する評価を新設し、在宅医療との連携を促す。介護療養病床の全廃撤回や、療養病床に対する外来・在宅医療との連携が評価されることは喜ばしいが、そもそも入院基本料の抜本的な引き上げを求める。

 常勤の管理栄養士の配置義務については、病院は一定の経過措置後、減算措置が導入される。有床診は配置義務はなくなったが、入院基本料は引き下げられ、常勤者が配置される場合は加算が導入される。一定の改善がもたらされたことは運動の成果である。

5.消費税はゼロ税率で対応すべきだ

 消費税増税の対応として、補填財源のほとんどを基本診療料に乗せることになった。我々は消費税増税そのものに反対だ。また、診療報酬への上乗せという手法も、矛盾を拡大するばかりである。速やかにゼロ税率へ移行すべきである。

 さらに、消費税増税分の補填による上乗せが、医療機関の儲けになるかのような、誤った印象を与える報道各社の姿勢について、正しい対応を求める。

 正式告示、通知の発出の後、協会では保団連に協力して新点数の検討を行うとともに、会員各位へ情報提供していく。また、各科での影響も検討する。それらの検討の中で、新たな不合理が発見されることもあろう。我々は、日常診療から見つかる不合理に対して、大衆運動団体として会員各位の声に基づき改善運動を展開する所存である。

2014年2月12日
京都府保険医協会 理事長 垣田さち子

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