医療安全68/医事紛争が刑事事件になりうる場合  PDF

医療安全68

医事紛争が刑事事件になりうる場合

 医事紛争が発生して、裁判沙汰に至ってしまうケースのほとんどは、民事事件として取り扱われます。つまり賠償責任の有無や賠償金額について争うことになるわけです。民事裁判で敗訴すると牢屋に入れられるのではないか、前科がつくのではないか、と心配される医療従事者の方もまれにいらっしゃいますが、民事事件ではありえません。また、警察は基本的に民事不介入ですから、警察が動くこともないのです。ただし、たとえ民事であっても、医道審議会は医療機関が敗訴した場合など、その過誤の内容によっては医師個人に対して、医業停止や免許取消などの行政処分の執行を決定(2002年12月13日)していますので、その点については注意が必要です。

 医療事故や医事紛争が刑事事件となりうるような場合は、「業務上過失致死傷罪」と「殺人罪」に限ると考えていただいて結構です。ただし、業務上過失致死傷罪となる要件は民事事件とどう違うんだと問われたときに、正直いって返答に困ります。どういうことかといいますと、ご承知の通り、最近は医療界に対しても世論が厳しく、その結果、過去には刑事告訴にまで至らなかった事例でも、今では刑事事件に発展してしまうことがみられるようになったからです。

 協会の把握するデータでは、刑事事件にまで発展したケースは数千件のうち数える程度です。過去には異型輸血や無資格者による医療行為など、いわばスキャンダラスな事件であったことが特徴としてあげられましたが、先に述べた通り、医療事故に関しては民事と刑事の境界線が曖昧となってきており、どのようなケースが刑事にまで発展するか、その予測が難しくなってきている様子が窺えます。しいていうならば、世間一般の人でも明らかに過誤と判断できるような事故で、かつ患者さん側に甚大な被害をもたらした場合は、刑事事件になる確率がより高くなったということでしょう。

 次に殺人罪を問われる場合ですが、当然ながら本来は医療と無縁のはずです。しかしながら、安楽死を疑われた事件では、先に述べた業務上過失致死傷罪ではなく、殺人罪を問われる場合があります。これはもはや不注意による「事故」ではなく、故意に起こした「事件」となってしまいます。

 次回は、安楽死についてお話しします。

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