医療安全対策の常識と工夫60  PDF

医療安全対策の常識と工夫60

医師の信念としての「前医批判」

 前回では「何故、こんなになるまでほっといた、もっと早く受診さえしてくれれば」といった後医の(何気ない)発言が「前医批判」と患者さんに捉えられ、結果として医事紛争が起こり得ることを紹介しました。ここでは更に、京都府保険医協会が実際にお会いした、ある外科系の医師の発言について考えてみたいと思います。その医師はこう仰いました。

 「私は前医批判には2種類あると思っています。一つは前医に対するいわば誹謗中傷の類で、これに関しては問題外でしょう。もう一つは明らかに前医の技術が未熟で下手としかいいようがない場合などです。フォローが大変なんですよ、こういう患者さんを送り込まれたら。このようなケースを私は医師として見過ごすことができません。場合によっては批判すべきです。駄目なものは駄目と言わないから医療は密室行為だとか、医師同士かばい合ってると世間から言われるんです。だから私は患者さんのために、医師にもちゃんとしたのと、そうでないのとがいるとはっきり言いたいんです」

 会員の方々はこの発言に対して如何お考えになるでしょうか? 同調される方もいるかも知れませんし、逆に反対される方もいるでしょう。また、一概に判断できないと感じている方もいるのではないかと思います。それこそ千差万別なのだと思います。この発言をされた外科系の医師は少なくとも「前医批判」に対して明確な意見を持っています。また、おそらくは腕に自信があるのでしょうし、外科系ということで手術のテクニックなど「見た目」で判断し易いということもあるのかもしれません。しかしながら、慎重にこの発言とその背景を吟味していくと、問題がない訳ではありません。

 次回は、前医批判の弊害についてお話しします。

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