医療安全対策の常識と工夫57  PDF

医療安全対策の常識と工夫57

「ならば医療費は結構です」この一言こそが医事紛争のスタートです!

 治療結果が予想外に悪かった場合、患者さんは医療過誤を疑ってクレームをつけてくることがあります。患者さんの勢いに負け、医療機関側は説明を巧くできないこともあるでしょう。そのような時に「そこまで仰るならば分かりました。医療費はいただきませんので(それで納得して下さい)」と言われる医療機関が時々見られます。このような発言をするのは医師だけでなく、看護部長や事務責任者などの場合もあるようです。それが誰であったとしても、決して適切な発言とはいえないようです。

 もちろん、医療機関側からすれば、やむを得ずというところでしょうが、「医療費を免除すれば患者さんは納得してくれるだろう、これで終わりにしてくれるはずだ」という発想が背景にあるのではないでしょうか。ここが大きなポイントです。患者さんからすれば「お金を問題にしているのではない」ということで一層逆上されることもあり得ますが、それ以上に「うやむやにされた」と感じる方もいるかも知れません。また、医療費を免除するということは、即ち医療過誤を認めたと解釈されがちです。患者さんが一旦そう思い込めば、当然のごとく医療費免除のみで、ことは済まなくなります。

 要するに医療費免除を、医療機関側は「これで終わり」とする手段と捉えている一方で、患者さんは逆に「これから始まり」と認識するのです。この両者の認識の違いこそが、医事紛争の発端となることが極めて多い様子が窺われます。第三者的に見ても、医療費を免除するということは、賠償金の一部を支払ったと解釈できます。従って、京都府保険医協会としても、医療機関側が医療過誤を認めたと患者さんが主張してきた時には、論理的な反論が困難となることもあるのです。

 そこで(医療過誤が明白になっていない場合は特に)少しでも早く穏便にことを済ませたい、と医療費免除を申し出ることは控えて、まずは因果関係など医療・医学的調査をすることを患者さんに伝えることをお勧めします。「これぐらいのことで何もそこまで」と思われることも多分にあると予想されますが、協会の経験からいうと、その発想こそが予想外の紛争拡大を招く要因となることがあるのです。

 次回は、患者さん側から医療費の支払いを拒否された場合の対処法についてお話しします。

ページの先頭へ