医療安全対策の常識と工夫53
やっと示談までこぎ着けたのに…
賠償責任を有する医事紛争が発生した後、医療機関側としても、いくつかのハードルを越えて患者さん側に示談に応じてもらうわけですが、いざ示談の日になって揉めてしまうケースが稀にあります。当然、示談の条件は患者さん側も既に了承済みのはずですが、いったい患者さんは何を言ってくるのでしょう。
示談書には一般に賠償金額等、契約事項の前に事故内容の簡単な記載がされています。これはあくまで概要に留めるものですが、患者さんによっては異常なまでに詳細にかつ医療機関側の責任を明示するように強要する方がいます。示談すること自体が、医療機関が賠償責任を認めた証として、患者さん側に了承してもらうように努めるべきでしょう。余り詳細な内容を示談書に盛り込むのは、その目的から考えても不適切だと思われます。
次に、先にも少し触れたことですが、示談の段階で予測できない予後についてまで、保証を求められることです。「もし、示談後に身体の具合が悪くなったら(無料で)面倒見てくれるか?」と患者さんは言ってきます。患者さんにしてみれば、当然の不安なのですが、不測の事態まで保証する示談は基本的にできません。第一そのようなことをしていては、示談する意味が全くないことになります。そのような患者さんに対しては、民法95条【錯誤】を紹介して下さい。この条文では当時の医療事故に起因する不測の後遺症が発症した場合は、例え示談をしていても交渉が再開できると解釈できます。不測の事態は起こったその時から対応できることを患者さん側も知れば、一応の納得を得られるのではないでしょうか?
いずれにせよ、示談を迎えるまでに患者さん側と十分に話し合いが行われていれば、このような事態に陥ることもないと思われます。示談の日を迎えて交渉決裂などは、絶対に避けなければなりません。示談書に患者さん側がサインをするまで、医事紛争は終わっていないのです。
次回は、対応が極めて困難な患者さんの場合をご紹介します。