医療安全対策の常識と工夫(50)
貴方ならどうします?(若い)女性患者の対応法
医師が患者さんの現在の状態を尋ねるのは当然の態度です。ところが、時としてその当然の態度をとることに躊躇いをお感じの医師も中にはおられるようです。
医師は学生時代から「女性を診れば先ず妊娠を疑え」と教育されているとのことですが、実際に女子中学生や高校生が来院した場合、女医さんは別としても、男性医師の場合は初診時に「貴女は妊娠している可能性はないですか? 生理はいつ来ましたか?」と尋ねて、若い患者さん達に不愉快そうな顔をされた経験を持つ方もおられるかと思います。実際に「セクハラ」と勘違いされたら都合が悪いと、京都府保険医協会に相談が来たこともありました。その当時、患者さんに悪戯をした医師の犯罪が新聞紙面等で報道されたこともあり、そういった相談も真剣そのものでした。
女子中高生の場合には、精神面を別とすれば、医事紛争に直結することはほとんどないのですが、それ以上の年齢の女性患者で妊娠を確認しなかったばかりに、レントゲンを撮り、後で胎児への影響が怖くなって堕胎、その慰謝料を請求してくる場合があります。これは患者さんが既婚・未婚に限りません。
医師としてもレントゲンによる胎児への悪影響は「恐らくありません」と助言できたとしても、「100%ない」と客観的にも断言できないため、患者さんに巧く説明できないこともあるようです。また、仮に赤ちゃんが何らかの障害をもって産まれた場合に、患者さん側はレントゲン以外の要因を考えることはないでしょう。確率的にはレントゲン以外の要因の方が高いかも知れませんが、実際のところは分かりません。
院内レントゲン室に「妊娠の可能性のある方はお知らせ下さい」と注意書きがあっても、それだけで十分とは限りません。患者さんに直接尋ねにくい場合は、少なくとも人間関係が構築される前の初診時には、妊娠に関するアンケートをとっておくことを方法の一つとしてお勧めします。これは妊娠の有無だけを尋ねるものではなく、幾つかの質問項目の一部に加え、かつ患者さん全員を対象とすれば不自然さもないと思われますが如何でしょうか?何かの際にはこのアンケートは証拠となります。もちろん、毎回アンケートがとれるとは限りませんから、後はそのような質問でもできる医師と患者さんの人間関係如何によると思います。
次回は、癌の告知についてお話しします。