医療安全対策の常識と工夫32  PDF

医療安全対策の常識と工夫32

誰が加害者?

 患者さんのクレームはその内容もレベルも千差万別です。稀に全くの誤解で言い掛かりとしか言いようのないものまであります。そのような場面に遭遇された医療機関の混乱は想像するに難くありません。しかしながら、紛争発生時点では、医療機関側としても果たして過誤があったかどうかの判断が、なされていないことの方が多いようです。そのような曖昧な状況下であっても「この患者はこんな無茶なことを言ってきて、この忙しいのに一体どういうつもりだ」と思ってしまう医師もおられるようです。

 以前、ある病院の院長が溜め息混じりに我々にこう仰いました。「私の所の勤務医の中には、腕は確かだが何か足らないような気がする者もいる。例えば、患者さんとのトラブルは全て病院に任せきりにするし、逆に自分こそが謂われのない文句を付けられた被害者だと思っているようだ…」

 こういった発言の是非に言及することは適当ではありませんが、医療安全の仕事を長く続けていると、同様のケースに出くわすことも何度かあるのは事実です。世間一般では医療事故や医事紛争に関して、「被害者=患者」「加害者=医師・医療機関」というイメージがあるようですが、今まで何度もお話ししてきたように、過誤がなくても患者さんの状態が悪くなることは十分あり得ることから、客観的に見れば責任の所在はそのような単純構造では決してありません。

 もちろん、患者さんが被害者であることには違いないのですが、ここで問題にしたいのは加害者です。加害者は医療機関の場合もありますが、医療(現場)の限界や自然の摂理と呼ばれるものが「加害者」となることもあるのです。

 次回は、被害者意識に陥った医師についてのお話をします。

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