医療安全対策の常識と工夫(25)
悪意なき?「改竄」
前回は、カルテを訂正することに必ずしも問題がある訳ではないが、その方法を誤ると改竄を疑われることを述べました。
一般には、カルテに虚偽の記載を追記した場合に改竄に当たりますが、事実の追記であっても改竄を指摘されるケースがあります。具体的な例を挙げてみましょう。
(1)十分に患者に説明をして、納得もして貰っていたが、医師としては常識的な説明であったのでカルテに記載をしなかった。ところが後日に医師は念のため、カルテの説明した日のページに「リスク等の説明をして患者納得」と加筆した。ただし加筆日を明記しなかった。
この場合、まず加筆すべきではなかったでしょう。しかも説明を実際した日のページに追記して、更に加筆日を明記しなかったのは、後で言い訳が通りません。医師にしてみれば事実の追記に過ぎないと考えたのでしょうが、安易な行為は逆効果です。
(2)本来、入院カルテに記載すべき事項を、外来カルテに記載してしまった。そこでその日の内に入院カルテに転記して、外来カルテのそのページを破棄してしまった。
転記日さえ明記すれば、それ自体に問題はありませんが、外来カルテの一部のページを破棄するべきではありません。「誤って書いたので入院カルテに転記」と外来カルテに追記して、そのまま残しておくべきだったと思われます。
(3)紛争の気配がしたので、主治医に無断で他の職員がカルテコピーを取っておいた。それを知らない主治医はカルテの原本に追加すべき事項を記載した。後で照合した際に原本とコピーが違うと指摘されてしまった。
小規模の診療所でカルテが一元管理されているのであれば、このような事態になることは先ずないでしょうが、大病院などの場合は複数の人間が一つのカルテを扱います。カルテをコピーすること自体は問題ないとしても、無断でするのは禁止事項としていただきたいものです。
これらのように医療機関側に悪意が余り感じられないケースでも、改竄を指摘されることがあります。また、改竄が裁判で認定されると医療過誤がないにも関わらず、賠償命令が出た判例もありました。当たり前のことではありますが、カルテの扱いには常に注意が必要なのです。
次回は、紛争時の患者さんの反応についてお話します。