医療事故調査制度を15年新設へ 真に原因究明となる体制構築を  PDF

医療事故調査制度を15年新設へ 真に原因究明となる体制構築を

 厚生労働省は5月29日に開催した「第13回医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会」で「医療事故に係る調査の仕組み等のあり方」案を提示、同部会は一部修正の上、了承した。今後は手続を定めたガイドラインの作成に着手し、医療法改正案をとりまとめ、国会に提出、最短では2015年度新制度導入をめざすとしている。

 少しこの間の経過を振り返ってみたい。

 99年患者取り違え手術や消毒液の点滴など医療事故が社会問題化する中、刑事事件化も相次いだことを受け、01年に「診療行為に関連した異状死について」の声明を日本外科学会が発表。04年には内科・外科・病理・法医など19学会が「診療行為に関連した患者死亡の届出について〜中立的専門機関の創設に向けて」と題する共同声明、翌05年日本学術会議が「第三者機関創設」を提言するなど、医療界からも決意表明が相次いで挙がり、同年9月、日本内科学会が運営主体となって「死因究明モデル事業」がスタートした。

 このような動きの中で06年2月福島県立大野病院の産婦人科医師が逮捕され、医療界に「患者を救済したいという医師の善意が裏切られた」と衝撃が走った。刑事裁判に対しては、日本産婦人科学会をはじめ多数の医師の支援もあり、08年8月に無罪判決に至ったが、産科を志す医師が減ったことは記憶に新しいところである。

 この間、07年3月日本弁護士連合会が「医療事故無過失補償制度」の創設と基本的な枠組みに関する意見書を提言。08年4月には厚労省から「医療の安全の確保に向けた医療事故による死亡の原因究明・再発防止等のあり方に関する試案―第三次試案―」、同年6月には医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案が世に出た。

 さて、医療版事故調は、診療中の予期せぬ死亡事故の原因究明と再発防止を目的に発足するという。骨子としては、待望論久しいところではあるが、細目に至っては議論が残る部分や不明瞭な箇所に不安が残る。まず、医師や医療担当者への刑事罰からの免責に言及せずして、果たして究明は果たしうるのか。憲法が保障する黙秘権と引き換えにするのだから民事はともかく刑事免責は当然だろうと指摘する法学者はいないのか。真に原因究明なくして再発防止はありえない。

 また、再発防止のためには、患者や医療担当者・医療機関の個別名称は伏せるとしても、第三者機関の調査終了と時を置かずして、他の具体的事実は速やかに公表されるべきだ。専門家の知恵や意見を広く集め議論を通じて予防システム構築に努力する必要がある。

 そして、医療機関にも自己の経費で院内事故調査委員会の設置を義務付けられる。医療関係団体としても座視はできない。大いに関心を持って、今後厚労省から公表されるガイドラインや法案にどのような官僚の意図を読み解くか。今後も注視していきたい。

医療事故調査制度における調査制度の仕組み
医療事故調査制度における調査制度の仕組み
出典:厚生労働省・医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会「医療事故に係る調査の仕組み等に関する基本的なあり方」についてより

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