医療・社会保障制度の後退許さない運動を  PDF

医療・社会保障制度の後退許さない運動を

理事長 関  浩

 京都府保険医協会会員の皆様、平成24年新年明けましておめでとうございます。

 東日本大震災の復興は道半ばではあるが、第3次補正予算に盛り込まれた阪神・淡路大震災の3倍の復興事業による景気押し上げに期待する。一方、福島原発では1号機から3号機において原子炉を突き破り、格納容器の底を浸食した核燃料の除去が迫られる極めて困難な状況にある。人知が無限でない限り、再び「想定外の事態」が起こらないという保証はない。何よりも電力の原子力依存度を減らし、再生可能エネルギーの開発に全力を尽くすべきである。

 TPPは、例外なき関税撤廃、あらゆる「貿易障壁」の撤廃を求める協定である。日本の「国民皆保険制度」は米国企業の「障壁」そのもので、米国通商代表報告書では「厳格な規制によって、医療サービス市場へ外国アクセスが制限されている」ときめつけている。政府はTPPに加盟しても公的医療保険制度は守れるという。しかし、日本の制度には、すでに保険外併用療養費という混合診療の仕組みが組み込まれている。規制の完全撤廃により参入する外国民間保険会社は混合診療の全面解禁をも要求するであろう。これを許せば「平等」という日本の医療の理念は「格差」という現実に取って代えられてしまう。

 彼らにとって都合がいいことに「投資家と国家間の紛争解決手続き」条項では、もしも国民皆保険制度を強化する政策をとった場合、保険会社が政府に対し、損害賠償請求訴訟を起こすことさえ可能になっているのだ。混合診療の拡大とともに、国内外の利潤追求の病院経営が進むことになり、国民皆保険制度の空洞化がもたらされる。社会保障の中核を破壊し国民に大きな打撃を与えるTPP参加は反対である。

 政権交代の原動力になった民主党マニフェストは、「社会保障の抜本改革」「消費税率の維持」だったはずである。だが「社会保障と税の一体改革」での社会保障改革は現行制度の延長線に過ぎず、かつ5%消費増税が明記された。現在のデフレ下での消費税増税は、景気低迷をさらに深刻化させ、税収全体の落ち込みを招く冷水・猛毒なのである。

 「社会保障・税の一体改革」の目的は、法人税や所得税などの財源を、財政再建に振り向けるために、社会保障に対する主財源を消費税に置き換えようとするもの。また、消費税の使途を社会保障に限定する「目的税」化は、社会保障費に消費税以外の財源を投入しないという危険なものなのである。財源がないからと社会保障費を増やさないという意見がある。しかし、財源問題でなぜ社会保障が狭められなければならないのか? いまこそ社会保障、医療制度保障をしっかりとした制度にし、将来の不安を軽減するべき。今年の介護・医療の同時改定においては、医療・社会保障制度の後退を許さない運動が必要である。

 協会は保険医として日本の医療の担い手である会員のために日常における保険診療、経営、医療安全、指導・監査、文化活動、日本の医療政策への提言など通じて会員の健全な医業に資するべく毎日の活動を続けていく所存である。

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