医界寸評
「春はあけぼの。やうやうしろくなりゆく山ぎは、すこしあかりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる」。枕草子の出だしである。作者の清少納言は春の夜明けにどのような景色を見たのであろうか▼3月の夜明けは、6時20分頃であるから、山が白みだすのは5時頃である。御所の中では、蛤御門のあたりから東山が良く見える。当時の平安京所在地は今の御所とは少し異なるが、あまり気にしないで、その季節、時刻に御所に立って東山を見ることにする。凛とした空気の中、大文字山の北の空が少しずつ明るくなってゆくのが見えた。かくして春の物語は始まり、時を超えて清少納言のセンチメンタリズムがしばしの間あたりを包み込んだ▼私が勝手に思うことだが、枕草子の冒頭がこのようになったのは、大文字山から比叡山にかけての稜線がとても美しいからではないだろうか。京都には他にもいとをかしなところは数多くある。文化と歴史に裏打ちされた景観。我々は当たり前のように接しているけれども、それは決して当たり前ではなく、とても有難いものである▼福祉も同様であって、当たり前ではなく、心を込めて獲得、維持、改善すべきものであろう。京都の景観は、文化、歴史という魂が込められているから価値がある。医療政策にも、愛という魂を込めることが大切である。(Clear)