医界寸評

医界寸評

 暗い世相にあって、相次ぐ日本人のノーベル賞受賞は、久々の明るい話題としてマスコミを賑わした。中でも物理学賞の三氏の業績から、「対称性の破れ」という言葉は、ちょっとした流行語になりつつある

▼自然界は対称性に満ちているように見えるのに、物理法則の根元の所に、対称ではない特性があるという。それはとても不思議に感じられるが、思えばこの人間世界も、対称なようで非対称な現実で一杯だ

▼「幸福な家庭はみな似通っているが、不幸な家庭は各々みな違っている」(トルストイ『アンナ・カレーニナ』)。「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」(野村克也)。そして医療でよく問題とされるのが、医師患者間の「情報の非対称性」だし、現在の金融不況の背景にも、金融商品をめぐる「情報の非対称性」があるらしい

▼医療における情報格差は、医療側の努力や患者との協力関係の構築によって、埋めていくことは可能だろう。しかし解散総選挙が近いと言われる昨今、これから気になるのは、政治をめぐる「情報の非対称性」である

▼郵政民営化が争点となった選挙で、国民は本当にその影響について十分情報を得た上で、選択を行えたのか。後期高齢者医療に関しては、国民は制度の内容をちゃんと把握して、国会の審議に注目できたのか

▼来る選挙では、投票する側とされる側の非対称性を、何とかして破りたいものである。

(は)

【京都保険医新聞第2664号_2008年11月10日_1面】

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