医界寸評  PDF

医界寸評

 8月10日、アニメ映画「火垂るの墓」をみた。非戦闘員まで空襲で家を焼かれ狙い撃ちにあう、恐ろしくも、その悲惨さに涙を禁じえない。焼け跡を逃れ、野山に喰物を求めてさまよい幼い妹を餓死させた実体験を下敷きに、20年間の沈黙を破って鎮魂の思いを籠めて発表した野坂昭如氏の第58回直木賞受賞作品で、1988年高畑勲氏が映像化した

▼主人公の清太は、45年9月23日、神戸空襲から110日目、母は焼死、父も海戦死し、保護を失い、三宮駅構内で下痢便に塗れて、ひっそり野たれ死にする。享年満14歳、妹節子4歳に栄養失調で衰弱死され1月になる。虱だらけの腹巻にあったドロップの缶を駅員が投げ白い焼骨がころがり出て、蛍があわただしく空に飛び交い、節子の像が現れる。幽体が解離したもう一人の清太が、自分の最期を後ろ姿に見とどめ、2人は手をとりあって来し方へと立ち戻る。地を焼き尽くそうと空から垂れる火の威力を、反芻して観衆に指し示す

▼今、我々は、また、団塊の世代で戦争を知らない子どもたちに属するこの私は、過剰な食物に満腹し、クーラーから涼風を恵まれ、何を学ぶべきか?戦争は、活劇映画に脚色されたカッコ良い娯楽番組ではない。必要悪とも正当化し得ぬ、修羅の世界である。戦争はむごいと認識して、恒久の平和を念願し続けねばなるまい。(卯蛙)

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