医師の診る風景 和束より(7)  PDF

医師の診る風景 和束より(7)

柳澤 衛(相楽)

人生の終わりの場所

 和束町での少子高齢化はいろんなところで実感することができます。

 母子手帳も年間10人前後の発行になったと集団予防接種の時に保健師から聞きました。BCG接種を2カ月に1度、保健センターでやりますが、2〜3人のことが多くなりました。お隣の笠置町では、出生が1年間ないと話題になりました。高齢化はお年寄りを見ていてもあまり感じません。和束町は男性の健康寿命が75歳と高く、グラウンドゴルフが前期高齢者ではNo.1スポーツです。以前大流行していたゲートボールは、後期高齢者のスポーツになっています。お茶畑で鍛えた足腰で、腰を曲げてファーストショットを頑張っています。高齢化は、地域の小さな食料品店の閉鎖、これは後継者のいないこともあるし、買い物に歩いてくる人の減少によることもありますが、こんなことで実感されます。週に2回食料品を積んで回っておられた巡回マーケットも中止になりました。

 オートバイのカブは減りましたが、シニアカーは増えました。時速6km以下ですが、2kmぐらいなら便利ですし、診療所へも来院されます。こんな辛気臭いのはいやだけど、80過ぎたらしょうがないと、交通安全のため目立つ赤い服を着て来られる方がいます。米寿を過ぎておられ、「みんなわしを抜いていきよる。こうなったら、皆見送ってやる」と元気です。

 車で10分ぐらいのところに、特養が2施設あります。

 長期入所の定員が50人です。施設で死亡された方が2014年は14人と11人。どちらも緊急入院で施設に帰ることなく、入院先で亡くなられた方が3人おられます。在宅での看取りは9人でした。2015年は施設が11人と9人、緊急入院で亡くなられた方が2人と4人、在宅では9人亡くなられました。施設の方は多くが老衰か老衰状態に近い方で、誤嚥性肺炎になられ、食事がとれなくなり介護職員の手厚い介護の中、亡くなられました。在宅には悪性腫瘍の方もおられ、転移も多発しているし、痛みもあるが、やっぱり住み慣れた我が家で最期をと希望された50代60代の方でした。強く在宅看取りを希望しておられましたが、最期は病院になりました。介護福祉、そして医療の連携が十分でないと最期までご本人の希望を叶えることはできません。在宅での看取りの方の多くは特養より少し若い方で、デイサービスを利用しておられたが、サルコペニアが進行して通所困難となり、在宅で亡くなられた方です。施設で亡くなられた方の3〜4割ぐらいが和束町の方ですが、和束町での年間死亡者は約70人です。住み慣れた地域で看取りを希望されても、なかなかご希望に沿うことができません。

 「片道切符」の救急車で病院に緊急搬送され、急性期を過ぎ転院して町外の医療療養、介護施設でお亡くなりになる方が多いということです。

 和束町みたいに田舎で、のどかで近所付き合いの残っていると思われている地域でも、住み慣れた場所での死亡がとても難しくなってきています。

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