医師が選んだ医事紛争事例(8)  PDF

医師が選んだ医事紛争事例(8)

 
麻酔に関してもインフォームド・コンセントの徹底を!
 
(40歳代前半男性)
 
〈事故の概要と経過〉
 トラックで右足を轢かれ右足関節内果骨折、右踵骨骨折となり、翌日に紹介入院し手術の説明を行った。手術は麻酔科医師がテトラカインRを用いて腰椎麻酔を施行したが、1回(5/8A)では効果が認められなかったため、2回目(2/3A)の同麻酔薬を注入した。ところがそれでも効果がみられなかったので、全身麻酔に変更して手術を施行した。術後数日して看護師に排尿障害の訴えがあり、整形外科医師が確認して経過観察となった。その後、泌尿器科を受診して、神経因性膀胱、前立腺肥大症と診断された。
 患者側は、排尿障害と排便時の肛門が弛む、ED等の症状に対して、医療機関側に説明の文書を求めてくるとともに、相当額の慰謝料を要求してきた。なお、職業はトラックの運転手で、医療費は労災が適用された。
 医療機関側の見解は以下の通り。
 (1)全身麻酔と腰椎麻酔とを比較すれば全身麻酔のほうが安全と患者に伝えている。
 (2)腰椎麻酔による合併症として、症状は、腰髄下部以下の神経支配領域の知覚異常、運動障害、膀胱直腸障害などであり、馬尾の損傷による神経障害(馬尾症候群)を否定できない。上記、症候群に対する説明はしていなかった。
 (3)馬尾症候群とEDについての因果関係は不明だが、合併症に対する説明はしていなかった。
 (4)麻酔における同意書には、具体的な内容が書かれておらず口頭のみの説明であった。
 上記理由により医療機関側としても説明不足は否めないと考えた。合併症による説明義務違反では過失が認められて敗訴している判例もあり、裁判となれば莫大な時間と経費がかかることもあり、妥当と考えられる額での示談交渉を希望した。また、担当医師の退院時の説明時にEDについての薬代は医療機関で持つとの確約もしてしまったため、それを撤回できない状況であった。
 紛争発生から解決まで約7カ月間要した。
 
〈問題点〉
 麻酔の適応について過失は認められない。しかしながらEDはやむを得ないとしても、麻酔のリスクについてカルテ記載が一切なかったので、説明義務違反については認めざるを得ない状況であった。なお、患者の対応法として、十分な医学的調査をする前から、EDの薬剤費用を免除する等、医療・医学以外の点について、医療機関側の事後の対応の拙さが認められた。一般的にいって、手術そのもののリスクに比較し、麻酔のリスクは説明が不十分なケースが散見されるので、麻酔についても、十分な説明が必要とされよう。
 
〈解決方法〉
 説明義務違反のみを認めて賠償金を支払い示談した。

ページの先頭へ