医師が選んだ医事紛争事例(6)  PDF

医師が選んだ医事紛争事例(6)

 
患者が医師でもインフォームド・コンセントは必要です!
 
(60歳代後半男性)
 
〈事故の概要と経過〉
 両眼老人性白内障、両眼糖尿病網膜症の診断名で左眼に、その後右眼に眼内レンズを挿入した。両眼に前増殖期糖尿病網膜症を認めたので、両眼に対してレーザー汎網膜光凝固術を合計4回施行した。その後、患者は再診の療養指導に従わず受診しなくなった。その間にトラブルは認められなかったが、数年経過した後に、レーザー手術によって視力が更に低下し、自分の職業である医業が行えなくなったとして2億円を口頭で請求してきた。なお、患者の術前の視力は左0・2、右0・6で、術直後は左0・1、右0・2であった。
 医療機関側としては、眼内レンズは白内障に対して挿入したものであり問題ない。光凝固術に関しては、手技に問題なく、適応に関しても施行しなければ、ほぼ確実に視力は更に低下することが予想され、他の選択肢もないことから十分に適応であった。また、眼底検査において術後に悪化した所見もないことや糖尿病網膜症においては、手術を施行しても視力の低下は起こり得ることから、医療過誤はないと主張した。患者の職業は内科医師であり、事後の説明を試みたが、眼科に関して基本的な医学知識に関しても疑わしい面があり、通常の理解さえ期待できないとのことだった。ただし、術前のレーザーに関する説明のカルテ記載がないことから、インフォームド・コンセントは得ていない可能性はあった。
 紛争発生から解決まで約7年2カ月間要した。
 
〈問題点〉
 眼底写真で黄斑部に硬性白斑が見られたので、黄斑浮腫が存在したと考えられる。また、視神経乳頭付近に軟性白斑もあり、光凝固の適応であった。より適切な時期に光凝固をしていたら視力は低下しなかったかどうかという問題については、どのようにしても良い結果は得られなかった可能性が高く、したがって患者側の損害も認定されなかった。患者が内科医師であったので、眼科医師は通常の患者ほど、説明を詳細にしなかった可能性があった。特に専門科目が異なる場合は、たとえ患者が医師であっても、通常の説明とカルテ記載は残しておくべきであった。極めて稀ではあるが、患者が医師であっても医事紛争に発展することは実際に幾つかある。また、患者(家族)が看護師の場合は、医事紛争にまで発展する数は、医師に比較すると極めて大きいのが現実である。その現実に対して疑問を呈される方もいるかもしれないが、患者が医療従事者であっても、医学的説明は通常通りにすべきである。
 
〈解決方法〉
 医療機関側が調査の上、医療過誤がなかったことを強調した結果、患者側からのクレームが途絶え久しくなったため、立ち消え解決と見なされた。

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