医師が選んだ医事紛争事例(42)  PDF

医師が選んだ医事紛争事例(42)

26年前の手術でガーゼ残存が発覚!しかも患者は暴力団員

(40歳代後半男性)

〈事故の概要と経過〉

 事故発覚時の26年前に十二指腸潰瘍のため胃切除術を施行した。手術は問題なく終了したが、26年後に別のA医療機関で横行結腸間膜頭側にミクリッツガーゼ(7・5×7・0×4・8cm)が偶然発見され、同医療機関において、開腹術により摘出した。その後、特に異常は認められなかった。 

 患者側は、全面的な医療過誤として26年前に手術を施行した医療機関に対して、強硬に賠償請求してきた。

 医療機関側としては、26年間で他の医療機関でガーゼ残存の可能性がある手術を患者が施行された証拠がないことに加え、残存していたガーゼの位置も当時の手術であり得ることから、手術の際に誤ってガーゼを残存したものと判断した。なお、患者は暴力団員で極端に強硬な姿勢を示し、冷静な示談交渉ができる状態ではなかった。そこで医療機関側は従業員の安全も考慮して、過誤を全面的に認めた上で債務額の確定訴訟を申し立てざるを得なくなった。

 紛争発生から解決まで約9カ月間要した。

〈問題点〉

 ガーゼ残存に関しては言い訳のしようのない過誤である。なお、患者は暴力団員で当時の態度から見て、法外な慰謝料を請求してくることが予想されたが、実際にはマスコミにリークして、テレビで院長による謝罪会見を実施させた。ガーゼ残存が長期にわたっていたため、民法724条「除斥期間」の適用が議論となったが、裁判所の判断では、除斥期間には相当しないとのことだった。つまり、26年経過後も医療機関側には賠償責任が認められることになった。ただし、患者が暴力団員で様々な要求をしてきたことから、医療機関自ら訴訟を申し立てたことは正しかったと思われる。適正な解決を求めるならば、時として、医療機関側から裁判を起こす勇気を持つことも必要であろう。 

〈結果〉

 医療機関側は、判決により賠償金を支払ったが、訴訟を申し立てる以前に、患者に要求されていた額より少額で済んだ。判決後は患者からの脅迫・恐喝が疑われるようなクレームは一切なかった。解決に要した期間が約9カ月というのも、医療裁判を経た医事紛争としては、極めて短期間で終了したと言える。

ページの先頭へ