医師が選んだ医事紛争事例(41)  PDF

医師が選んだ医事紛争事例(41)

ついうっかり薬剤中止を伝え忘れて…

(20歳代前半男性)

〈事故の概要と経過〉

 IgA腎症で抗血小板剤(コメリアン)を処方中であり、尿所見悪化の病勢確認のため、腎生検を予定していた。腎臓内科の外来で入院予定を確認したが、その際、腎生検実施の1週間前に抗血小板剤を中止することを、医師は指示し忘れた。その結果、入院時に抗血小板を中止していなかったことが判明して、入院のキャンセルに至った。

 患者側は、入院を突然キャンセルされたことにより、余分に1週間の休業をせざるを得なくなったとして、休業損害のみを請求してきた。

 医療機関側としては「腎生検ガイドブック」(日本腎臓学会・腎生検検討委員会編)によると、「抗血小板薬は…通常、安全域を考慮して約1週間前から服薬を中止することが安全であろう」とされていることから、抗血小板剤の中止を患者側に伝えなかったことは療養指導義務に違反するとして、医療過誤を認めた。

 紛争発生から解決まで約1カ月間要した。

〈問題点〉

 休薬を患者側に指示し忘れたことは、明らかな医療機関側の説明義務違反もしくは療養指導義務違反である。患者側の請求額が法外ではなかったため、比較的スムーズに示談交渉を終えることができた。なお、医療機関側は今後同様の過誤を起こさないように、休薬指示のチェックリストを作成して院内で周知徹底するとのことであった。

〈結果〉

 医療機関側が説明義務違反を認めて、患者側の請求額通り賠償金を支払い、示談した。

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