医師が選んだ医事紛争事例(32)  PDF

医師が選んだ医事紛争事例(32)

過誤がなくても手術の良い結果が出ないと…

(40歳代後半女性)

〈事故の概要と経過〉

 右上肢の痺れ感と右2・3・4指の痺れがあり受診した。診察の結果、C5/6変形性頚椎症とC6/7右側に椎間板ヘルニアを認めた。そのため保存的に投薬治療を開始したが、症状が改善されないので、C5/6頚椎前方固定術とC6/7椎間板ヘルニア摘出術を施行した。術後より嗄声となり、同医療機関の耳鼻咽喉科を受診。医師は手術の際に頚椎前方にかけた開創器の牽引時の圧力が右反回神経に加わり麻痺を生じたと考え、自然回復を期待し術後4カ月経過を見ていたが、全く改善は認められなかった。そのため、形成外科専門のA医療機関を紹介した。その後B医療機関において声帯移行術を施行した。しかし、当該医療機関受診の時点では、声帯移行術前と変化は見られず、今後も改善の見込みはなかった。

 患者からは手術の結果、声が出なくなった。声帯移行術を受けても声は出ないと主張して、治療費だけではなく、今後の補償もしてほしいと要求してきた。

 医療機関側としては、反回神経麻痺の起こる可能性のある手術であるが、多くは一過性のもので2〜3カ月で回復する。しかし手術の際に使用した開創器の牽引の圧力が予想以上に加わってしまったために発生したと考えられるものの、過誤があったかどうかは判断できなかった。

 紛争発生から解決まで約5年11カ月間要した。

〈問題点〉

 診断について問題はなく、治療についても、はじめ対処療法を行い結果として症状が改善されないため手術を施行しており問題はない。術前の説明についても合併症についての説明は行われて、その旨のカルテ記載もある。手術は正中より右側から行われ、通常通りの手技で施行され、右手指の痺れや筋力低下は改善され目的を達している。術直後からの嗄声については、合併症として自然回復を期待し経過を見ることについては問題ない。反回神経麻痺を起こさないためにも手術操作は慎重に行なわれ、ミスと考えられるものは見当たらなかった。

〈顛末〉

 医療機関側が過誤のないことを主張し続けたところ、患者側からのクレームが途絶えて久しくなったので、立ち消え解決とみなされた。   

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