医師が選んだ医事紛争事例(31)  PDF

医師が選んだ医事紛争事例(31)

「手術の効果がなかった!」医師の説明を聞かない患者

(50歳代後半男性)

〈事故の概要と経過〉

 頚椎椎間板ヘルニア(C3/4)、頚椎症性脊髄症、頚椎後縦靱帯骨化症(C6)で入院。第4頚椎から第6頚椎の椎体を切除し、第3頚椎と第7頚椎の間に腓骨を移植しプレート固定する手術を施行した。術後、症状は改善して歩行もスムーズとなったが、約1カ月経ってから、術前と同様の状態で痺れ等が発症したと訴えた。

 患者側は、第3頚椎の脆弱性によりそれと移植骨である腓骨をプレート固定するためのネジを確実に受け止めることができなかったので、第3頚椎椎体がやや屈曲方向に固定して、同後下縁で脊髄を圧迫する結果となった。手術過誤を主張し、それにより身体全体が痺れ全身不随状態になったとして、調停を申し立て、数千万円を請求してきた。

 医療機関側としては、病状について複数回にわたり患者および親族に説明をしてきたが、2回目の追加手術の提案を拒否された。仮に追加手術を施行していれば患者の状態は改善したと考える。また、患者は現時点でも独歩可能で握力も良好なことから、手術により身体全体が痺れ全身不随状態になったとの主張は事実に反する。今回は患者側の理解不足による誤解として医療過誤を否定した。

 紛争発生から解決まで約2年3カ月間要した。

〈問題点〉

 診断・適応・手技・説明・事後処置に医療過誤は認められない。ミエロCT検査では、C3椎体後下縁と脊髄との間には脳脊髄液による隙間が見えるので脊髄を直接圧迫して悪化した像には見えず、術前からの脊髄障害の経過の範囲内の可能性もあった。

〈顛末〉

 調停不調後に、患者側からのクレームが途絶えて久しくなったので、立ち消え解決とみなされた。

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