医師が選んだ医事紛争事例(30)  PDF

医師が選んだ医事紛争事例(30)

前医批判を発端とした医事紛争

(60歳代前半男性)

〈事故の概要と経過〉

 左肘部管症候群の疑いで入院の後、神経展開術を施行し、軽快退院となった。退院後間もなく左肘関節痛と手関節から拇指示指にかけての痺れが強くなったとの訴えがあり、神経伝導検査をしたところ左手根管症候群と診断した。再入院して左手根管開放術を施行、軽快退院となった。その後はリハビリ目的で外来通院を続けていたが、痛みが3倍程度になったと訴えてきたため、検査の結果、頚椎症性神経根症と診断して鍼灸治療とリハビリを継続した。その後、左手の痺れが低下したので職場復帰したいとの申し出があり、治療中止となった。

 患者側は、施行された2回の手術後、左上肢の痛みと手の痺れが残存し、医師にもその旨伝えたが「日にち薬だ」と言われ対応してもらえなかったとして、金額の明示はないが賠償請求をしてきた。

 医療機関側としては、治療は頚椎症性神経根症に対する治療であり、過去の疾患と関連してダブルクラッシュ症候群を発症していると、患者本人に説明をしたが、すでに信頼関係が崩壊していて理解を得られなかった。また、一連の医療行為に対して、過誤と認められるところはなく、治療を中止して3年経ってから、実は痛みが残っていたと言われても、困惑する限りとのことだった。また、今回、患者がクレームを医療機関側に言ってきた原因として、別の医療機関の医師が、現在の患者の痛みは手術中の神経損傷によるものとの患者への発言があったらしい。なお、患者の痛みについては主観的であり、その有無について否定・肯定とも医学的にはできないが、ニューロメーターにより、痺れについてはないことがある程度証明できたものと判断された。

 紛争発生から解決まで約3年3カ月間要した。

〈問題点〉

 患者の訴えである痛みについては、主観的なものでありカルテ等からでは判断ができないが、他の医療機関の医師が本当に神経損傷と患者に伝えているならば、診断書を作成して証明すべきであっただろう。前医批判を無条件に否定するものではないが、根拠のない前医批判は、患者にとっても有害であることを認識されたい。

〈顛末〉

 神経損傷の証明ができなかったため、医療機関側が過誤を認める根拠はなかった。患者側からのクレームが途絶えて久しくなったため、立ち消え解決とみなされた。

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