医師が選んだ医事紛争事例(29)  PDF

医師が選んだ医事紛争事例(29)

患者の鼻腔内にタンポン残存

(40歳代後半男性)

〈事故の概要と経過〉

 慢性副鼻腔炎で鼻内内視鏡手術を施行したが、術中あるいは術後に止血目的で挿入したタンポンが残存していたことが、患者が入浴中に左鼻からガーゼが出てきた、と医療機関側に報告して判明した。更に、患者が鼻をかんだ際に2cm、1cm、1・5cmの3枚のタンポンの切れ端が出てきて、後日診察時にスプレーの麻酔を使用して左鼻から更に1枚除去した。副鼻腔のCTは撮影していたが、タンポンの残存は確認できず、頭部CTでも確認できなかった。なお、患者は右・左とも副鼻腔炎が増悪していた経緯があった。

 患者側は、タンポンが残存していたために、副鼻腔炎が増悪したと訴え、医療費自己負担分を賠償してほしいと要望した。

 医療機関側としては、タンポンは手術時に上顎洞に残存したものと推測され、左副鼻腔炎が増悪したのもタンポンの残存が原因と判断した。ただし、右鼻に関しては患者の原疾患であり、副鼻腔炎の増悪と因果関係はないが、後遺障害も残らない可能性が高い。使用したタンポンはレスチキン2本とガーゼ5本×2で計12本であることはカルテ記載から確認されたが、除去する際にカウントした形跡が見られず、またカウントした記憶もないとのことだった。したがって医療過誤があったものと判断した。ただし、左鼻の副鼻腔炎の増悪と、タンポンの残存の因果関係は100%あるといえず、仮に残存がなくても、10%程度は再発する可能性があると主張した。なお、患者はタンポン残存後も手術の必要はなく、薬物療法を継続した。

 紛争発生から解決まで約4年2カ月間要した。

〈問題点〉

 タンポンの残存に関しては以下の点から明らかな医療過誤と考えられた。

 (1)術後にカウントしていない。もしくはそのカルテ記載(証拠)がない。

 (2)後に患者が残存を訴えたにもかかわらず、精査をしなかったために残存を見逃した。

 (3)結果的に5片のタンポンが残存していた(タンポンは時間の経過とともに、完全に1本ではなく切れ端となって残存していた)。

〈顛末〉

 医療過誤は認められ、医療機関側は誠意をもって謝罪をした。その後、患者の態度が和らぎ、賠償請求をしなかったため、立ち消え解決とみなされた。医療機関側の金銭以外の「誠意」が患者側に通じた、珍しいケースであった。

ページの先頭へ