医師が選んだ医事紛争事例(27)  PDF

 医師が選んだ医事紛争事例(27)

時として厳しすぎる判決も…

(50歳代前半女性)

〈事故の概要と経過〉

 MRI検査で子宮頚部に腫瘍を認め、悪性腫瘍の可能性があったので、拡大子宮全摘術および両側付属器切除術を行い、骨盤リンパ節の試切を施行した。患者にはクローン病の既往があり、小腸部分切除術の手術歴があったので、手術時に小腸部分に強度の癒着を認めたが、手術は特に問題なく終了した。ところが、翌日に右下腹部の痛みを訴え、その1日後には左下腹部に激しい痛みが発症した。強度の癒着部分の切除によるものと判断し、内服により疼痛緩和を行った。その後も痛みが続き、患者・家族の希望により消化器科医師の診察を求め、汎発性腹膜炎と診断された。患者・家族に経過と今後の手術について説明し、同日、外科医師により再開腹したところ、小腸の手術部位に穿孔を認め、修復術を施行した。縫合部の離開を認めて、上行結腸の部分切除と回腸人工肛門造設術を行った。3カ月後に一旦退院し、2週間後に再入院。人工肛門閉鎖術を施行し、術後経過良好で退院した。なお、骨盤リンパ節試切の結果、腫瘍は良性であった。

 患者側は、子宮全摘術直後から腹痛を訴えていたにもかかわらず、適切な対応がされなかったことから、重大な結果を招いたとして、調停の後、訴訟を申し立てた。

 医療機関側は、腸管合併症のため婦人科での開腹時に手術施行に際し相当の困難を認めたが、結果として小腸部分に穿孔をさせたのは医療機関に過失があったと判断した。

 紛争発生から解決まで約4年6カ月間要した。

〈問題点〉

 子宮頚部に悪性を疑う腫瘍があり、子宮全摘術および両側付属器切除術の適応は問題ない。患者はクローン病の既往があり、小腸部分に強い癒着があることを確認し、手術は慎重にされており手技的にも問題はないと考えられた。しかし、術後の痛みの原因については、3日も経過してから、患者側の希望で消化器科医師に診察依頼し、小腸部分の穿孔との診断をつけるなど対応が鈍かった。また、手術時に小腸部分の癒着が強く困難を極めているのであれば、術後にレントゲン撮影で穿孔の有無の確認が必要ではなかったのか。患者は最終的に訴訟を申し立てたが、裁判官は和解条件として、謝罪文と患者の未払いになっている医療事故に関係のない医療費の徴収を控えることと若干の慰謝料を提示したが、このような和解条件を認める訳にはいかず、医療機関が和解を拒否したところ、和解提示額の3倍の判決額を言い渡された。医療機関側にとっては医療過誤は認めたものの、判決までの経緯に疑問が持たれたケースであった。

〈解決方法〉

 医療機関側の敗訴に終わった。

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