医師が選んだ医事紛争事例(25)
骨折診療後の拘縮に徒手矯正をしてまた骨折!
(40歳代後半男性)
〈事故の概要と経過〉
スキー滑走中に転倒し受傷し、当地の医療機関で受診した後紹介され、翌日に医療機関の整形外科を初診した。膝CT、MRI等で精査し、左膝後十字靱帯(PCL)裂離骨折、左膝前十字靱帯(ACL)裂離骨折、左膝内側側副靱帯裂離骨折と診断、数日後に全身麻酔下で靱帯縫合術(PCL、ACL)を施行した。患者の希望もあっていったん退院し、リハビリ目的に通院加療を行ったが、膝関節拘縮を認め、再入院となり、鏡視下に関節授動術を施行した。屈曲°70、伸展マイナス°35であった。その後CPM(持続他動運動療法機)を開始するとともに、硬膜外麻酔下にて2回目の関節授動術を施行、継続して硬膜外麻酔を行った。屈曲°80、伸展マイナス°25、その後に屈曲の徒手矯正を行ったが、翌日MRIで左脛骨近位端骨折を確認したため、前日の矯正によるものと判断し安静を指示した。その後、腫脹が軽減したため創外固定術を施行。更に全身麻酔下で裂離骨折部の観血的骨接合術を行った。
患者側は、今回の骨折事故は故意によるものでなく、治療中の出来事でありやむを得ない。主治医を信頼しており、障害者になりたくないので治してほしいとの意見であったが、今回の事故により家計が圧迫され始めたことから訴訟を申し立てるに至った。
医療機関側は、今回の左脛骨近位端骨折は医療過誤であったと判断した。
紛争発生から解決まで約4年6カ月間要した。
〈問題点〉
靱帯縫合術(PCL、ACL)の適応・手技に問題はない。屈曲矯正の際には、術後の癒着があることを予測しながら、拘縮を十分に確認して行うべきであり、矯正時の骨折は医療機関の過誤と考えられた。患者は医療機関に対して強い怒りを覚えての訴訟ではなく、経済的にやむを得ない訴訟であったと述べているが、結果も患者側が請求した額とは大きく差があり、極めて残念な裁判例だったと言える。