医師が選んだ医事紛争事例(24)  PDF

医師が選んだ医事紛争事例(24)

点滴による神経損傷? 調停でもけりがつかず…

(60歳代後半女性)

〈事故の概要と経過〉

 風邪症状を訴えて内科を受診した。内科医師は症状から脱水と診断し、他の医療機関で各種の投薬を受けていることから、ソリタT3200mlの点滴のみを指示した。指示を受けた准看護師は、22Gの翼状針で左上腕肘関節部に点滴を行うため駆血帯を巻いたが、血管が確認できなかったので駆血帯を巻き直したところ、肘関節内側に毛細血管様の青い血管が確認されたので、表皮近くを穿刺した。しかしながら、逆血がなかったため針を抜いた。この時点で患者は点滴を拒否したが、准看護師は病状から点滴は必要と考え(担当医に相談しようとしたが、すでに帰宅していた)、改めて左上肢肘関節内側の血管を確認して穿刺した。ところが、その時も逆血がなかったので針を抜いたところ、患者は激しい口調で点滴拒否の態度を示し、また「ビリッと痛みが走った」と訴えた。結局、点滴は他の看護師に変わり、右上腕肘関節部で実施し終了した。 

 患者は再度来院し、左肘関節部内側に腫れと皮下出血があると訴え、これは点滴ミスであるとして調停を申し立てた。

 医療機関側としては、点滴施行時の穿刺部位で内出血、腫れがあるのは事実であるが、患者の訴えに対しては誠意を持って対応してきた。神経損傷をきたしたかどうかについては、その後に筋電図をとっても他覚的な所見が明らかにならず、その後のビリビリ感も患者の心因的な要素が強いのではないかと推測した。

 紛争発生から解決まで約8年9カ月間要した。

〈問題点〉

 脱水に対して点滴の適応があったかどうか疑問があったが、内科医師は適応があったことを確信し、患者側にも説明し理解を得ていたとのことであるので、この点については過誤を追及できなかった。准看護師についても、その行為に医療水準を逸脱したところはなく、患者の訴えについては一般的な合併症と考えられ、賠償責任を有する過誤はないと判断された。

〈顛末〉

 調停不調となった後、患者側からのクレームが途絶えて久しくなったので、立ち消え解決とみなされた。

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