医師が選んだ医事紛争事例(20)  PDF

医師が選んだ医事紛争事例(20)

血糖コントロールには十分な検査が必要!

(70歳代前半女性)
〈事故の概要と経過〉
 数年前から糖尿病性腎症による慢性腎不全が進行していた。手足の痺れ、嘔吐の症状で医療機関を救急受診。高カリウム血症(K8・8)であったので、ICUで緊急血液透析を施行した。透析導入後は別のA医療機関で維持透析を受けていた。2年後に血糖コントロール不良で、当該医療機関糖尿病内科に紹介受診となり、アマリールR(1mg)1T開始となった。その後のフォローはA医療機関で施行された。ところが透析による腰椎症の痛みや痺れ感が強度となったので、腰椎後方固定術の予定で再び当該医療機関へ入院、整形外科において手術施行。術前後の血糖の異常は認められなかった。術後に疼痛が持続されたのでボルタレンR、ペンタジンR等の鎮痛剤を使用したがコントロール不良であった。その後、不穏、興奮状態となり抑制が困難であった。心療内科にて術後せん妄との診断でルーランR、レスリンRの処方開始となったが不眠となったのでレスリンR増量、ルーランR減量とした。1月27日の朝に覚醒せず舌根沈下が認められた。検査の結果、低血糖(23mg/)による意識障害と診断、直ちにブドウ糖を投与したが改善なく、人工呼吸器による呼吸管理となりICUに入室した。その後も意識障害の改善は認められなかった。
 患者側は証拠保全を申し立てた後に、弁護士を介して文書で賠償請求してきた後に訴訟を申し立てた。
 医療機関側としては、経口血糖降下剤内服中に、食事の摂取量が減少したことから低血糖となった。内服中止もしくは血糖測定をすべきであったとして医療過誤を認めた。
 紛争発生から解決まで約9カ月間要した。
〈問題点〉
 医療機関側の主張通り、血糖コントロールをする検査が不十分であった為に、今回の事故が発生したと判断せざるを得ない。患者は食事量の減少が認められたにもかかわらず、医療機関側は検査もせずにアマリールRを投与し続けた。本来ならば、血糖チェックをこの時点でしておくべきで、チェックをしていれば、低血糖を避けられた可能性は否定できなかった。
〈顛末〉
 裁判所の和解勧告に従い、和解金を支払って終了した。なお、和解金額は訴額の3分の1程度であった。 

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